Research Abstract |
抗下垂体抗体(APA)のスクリーニングテストとしてEnzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)を用いた抗下垂体抗体測定法(ELISA/APA)を確立し、その臨床的有用性について検討した。ELISA/APAの抗原はラット下垂体の可溶性分画成分を用いた。その測定法は、間接酵素抗体法に準じて行った。結果の判定は,自己抗体陰性血清の吸光度で患者の吸光度を除算し,cut off index(C.I.値)として求めた。健常者37名と自己免疫性甲状腺疾患の橋本病27例,バセドウ病51例について検討した。健常者のC.I値の分布は,0.71〜2.40で平均値1.22標準偏差(S.D.)0.47であった。橋本病では,平均値1.24,S.D 0.70,バセドウ病で平均値1.57,S.D 1.22であった。健常者の平均値+2S.Dをcut offとして,それ以上を陽性と判定すると,橋本病で27例中5例(18.5%),バセドウ病51例中9例(17.6%)に陽性がみられ,これら症例の多くは,Western blot法でも陽性バンドがみられた。本法は,抗下垂体抗体のスクリーニング法として有用な方法であり,多くの症例について簡便に測定することができるので,疾患との関連性を追求する方法として有用な検査法である。本法で陽性を示した症例を既報のWestern blot法で確認することにより,血中抗下垂体抗体測定法の実用化が可能となると思われる。 Western blot法で陽性バンドとして多く確認された抗下垂体対応抗原のひとつである22kDaタンパクの解析として,ラット下垂体から細胞質分画を抽出し、これを試料として高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により対応抗原の分離,分取を試み,抗下垂体抗体陽性患者血清と反応する蛋白のピークフラクションを用いてアミノ酸配列解析を行った。アミノ酸配列解析は,分取された試料をプロブロット膜(ABI)に固定化し,プロテインシーケンサ(Model4476A.ABI)により解析を行った。アミノ酸配列解析およびホモロジー検索を行った結果,N末端側からP-A-M-L-S-S-L-F-N-A-V-L-Rのアミノ配列を解析できた。この配列をホモロジー検索にて解析した結果,種々の動物腫のソマトトロピン(成長ホルモン)と一致する結果が得られた。ホモロジー検索結果においてソマトトロピンの分子量とHPLCのピークフラクション分画中の蛋白分子量が一致していることや臓器由来からもこの蛋白は,ソマトトロピンであると推定される。22kDaのタンパクは,ラット由来ソマトトロピンであり,precursorからsignal sequenceが切断されたものと思われる。この結果から,抗下垂体抗体の1グループは,下垂体ホルモンに対する抗体であり,成長ホルモン(GH)に対する抗体と考えられた。抗下垂体抗体の対応する抗原は,単一なものでなく,疾患および患者症例によって異なることは,WB法で確認されているが,その多くは,GHであると思われた。今後,さらに他の陽性バンドについて検討すべき課題であり,自己免疫性多臓器内分泌障害の発症機構との関わりについて追求する必要がある。
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