1995 Fiscal Year Annual Research Report
現代行為論における対立する諸テ-ゼの関係の解明とその統一的観点の確立
Project/Area Number |
06610005
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野矢 茂樹 東京大学, 教養学部, 助教授 (50198636)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
門脇 俊介 東京大学, 教養学部, 助教授 (90177486)
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Keywords | 意志 / 意図 / 行為者性 / 行為記述生成 / 信念 / 志向性 / 反因果説 / 実践的全体論 |
Research Abstract |
野矢は、まず分析哲学系の行為論を検討、整理し、その成果を汲みつつ、新しい論点を提示するに至った。そのもっとも重要なものは次の二つである。 (1)行為記述の生成関係として従来考えられていたものに、さらに「分析的生成」という観点を導入し、それによって行為論における意志の無限後退問題を解消しようとした。 (2)共同実践における可能な障害と調整の在り方という脈絡に着目することによって、「意図」概念の明確化を試みた。なお、(2)の議論は門脇のブラットマン研究に触発されたものであり、共同研究の成果であると言える。さらに、野矢はこれらの検討の細部を詰めるとともに、言語行為とコミュニケーションの問題、行為主体における一人称特権の問題、そして古典的な哲学問題である自由の問題へと進み、これらはいまも続行中の研究である。門脇は、分析哲学との接点を保ちつつ、主として現象学的行為論の研究を進めた。まず、フッサール後期思想において「信念」の志向性が、どのようなタイプの行為上のコミットメントとして機能しているかを明らかにし、従来曖昧なままだった「生活世界」概念の実践的性格を明確に主題化した。さらに、「行為」「意図」の基礎的な概念を整理し直し、それに基づいて行為における反因果説と因果説との対立を明瞭に定式化した。その上で、ハイデガ-の現象学的な行為論が反因果説の先駆的形態であること、および「世界内存在」なる概念が現代哲学の「要素主義」「表象主義」に反対する「実践的全体論」をなすことを示し、現象学的行為論の構築のための基礎的視点を確立した。また、行為の意図と責任に関する応用問題として、「道徳上の運」のパラドクスの考察も進めた。全体として、これら各々の研究を交差させることにより、両名ともに反因果説の立場への親近性を強めることとなった。
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[Publications] 野矢茂樹: "行為者性と意図" 東京大学教養学部人文科学科紀要. 第103輯. 175-218 (1995)
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[Publications] 野矢茂樹: "「考える」ということ" ウィトゲンシュタイン読本(法政大学出版局). 241-253 (1995)
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[Publications] 野矢茂樹: "自己知の文法" 分裂病論の現在(弘文堂). (印刷中). (1996)
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[Publications] 門脇俊介: "存在論と、哲学の新しいボキャブラリー" ハイデッガ-を学ぶ人のために(世界思想社). 168-185 (1994)
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[Publications] 門脇俊介: "Three Voices of Philosophical Texts" 東京大学教養学部人文科学科紀要. 第103輯. 278-294 (1995)
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[Publications] 門脇俊介: "生活世界・志向性・人間科学" フッサールを学ぶ人のために(世界思想社). (印刷中). (1996)
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[Publications] 野矢茂樹: "心と他者" 勁草書房, 256 (1995)
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[Publications] 門脇俊介: "現代哲学" 産業図書, (1996)