1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06610007
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山田 弘明 名古屋大学, 文学部, 教授 (40106258)
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Keywords | エリザベト / 心身問題 / 情念 / 最高善 / 世界観 / マキャベリ / セネカ / 健康 |
Research Abstract |
本研究の出発点は、デカルトの哲学書簡集の全訳であった。三年間それに取り組んでみて分かったことは、700通あまりの書簡の翻訳は時間や労力の点で短期間ではとても無理であること、また訳出するなら往復書簡の形で訳をするのでなければその意味は半減すること、そして複数の文通相手を分散的に取り上げるよりも、一人に的をしぼった方が実りのある研究になることである。そこで仕上がったのがデカルト=エリザベト往復書簡の全訳と注解である。この研究によって得られた新たな知見は多くあり、その意味は次の点で大きいと考える。 1 本邦初訳のものが多いこと。取り上げた書簡のうち、すでに日本語に翻訳されているものは、デカルト書簡では90%に達しているが、エリザベト書簡ではわずかに7%にすぎない。英訳でも、そのパーセンテージは低い。そのすべてを訳出した本研究は、これまでの欠を補うものとして世界に誇ることができる。 2 エリザベトの批判がきわめて厳しいことが判明したこと。従来の解釈ではエリザベトはデカルトの忠実な女弟子のように見られているが、その書簡を丹念に読むと、彼女は決して忠実ではなく、事あるごとにデカルト説に異を立てていることが分かる。情念、心身問題、世界観などの問題においてそうである。デカルトの合理主義的理論の弱点を、エリザベトは実践の立場から鋭く指摘していることになる。 3 そこからデカルトは多くの哲学的問題を展開したことが了解されること。デカルトはエリザベトの批判を謙虚に受けとめたがゆえに、それに対処して多くの議論を発展させることができた。たとえば「情念論」などは、机上の空論ではなく、エリザベトやその一家の置かれた状況に対応して書かれたものとして読むことができる。 4 17世紀という時代を映す鏡になっていること。書簡という形であるがゆえに、その背景になっている時代状況が具体的に明らかになっている。三十年戦争、生殺与奪の権力闘争、大貴族の憂鬱なる日常、温泉に集まる貧民、病気への迷信など。かれらの書簡は、時代を生き生きと映し出す第一級の史料と見ることができる。
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[Publications] 山田弘明: "真理基準をめぐって(下)-ライプニッツとデカルト-" 名古屋大学文学部研究論集. 哲学・41. 67-104 (1995)
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[Publications] 山田弘明: "「第六省察」をどう読むか" 哲学. 45. 73-86 (1995)
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[Publications] 山田弘明: "真理の明証説-明晰判明という基準をめぐって" アルケ-(関西哲学会年報). 3. 13-22 (1995)
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[Publications] 山田弘明: "デカルトと心身問題" 中部哲学会紀要. 28. 1-13 (1996)
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[Publications] 山田弘明: "マルブランシュ「観念の本性について」訳注" 名古屋大学文学部研究論集. 哲学・42. 53-87 (1996)
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[Publications] 山田弘明: "真であるとは何であるか-デカルトと自然の光-" 思想. 11. 73-90 (1996)
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[Publications] 山田弘明: "『方法序説』を読む-若きデカルトの生と思想-" 世界思想社, 258 (1995)
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[Publications] 所雄章: "現代デカルト論集III日本編" 勁草書房, 352 (1996)