1994 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06610049
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Research Category |
Grant-in-Aid for General Scientific Research (C)
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
津上 英輔 成城大学, 文芸学部, 助教授 (80197657)
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Keywords | J.J.ヴィンケルマン / Ch.W.グルック / 音楽上の古典主義 / 「自然」の概念 |
Research Abstract |
西洋音楽における「古典主義」がいかなる思想的脈絡の中で形成されたかを解明することを最終的な目的とする本研究の第1年目にあたる平成6年度では,音楽上の古典主義を準備したと考えられる文学や美術における古典主義とその基盤となった古典の伝統の内実を明るみに出すことを課題とした。その具体的な方法としてまず,音楽上の古典主義と深い関係を有すると見られるグルックのオペラ改革の思想的背景を探るため,ヴィンケルマンのGedanken Uber die Nachahmung der griechischen Werke in der Malerei und Bildhauerkunst(1755)を取り上げることとし,これまでに注釈や関係論文で周辺的な事実関係を補いつつ,原文で読み終えることができた。その中で明らかになってきたのが,「自然」の概念の多義性,およびそれと「ギリシャ人を模倣せよ」という彼の主張との関係である。これについては成城大学大学院美学美術史専攻の紀要に論文を投稿中であるが,その大略を示せば,彼の言う「自然」は,産出されたものとしての外的な自然と内的な産出原理としての自然という二重の契機を内含する。彼はその二重性を人体と精神との関係に置き換え,人体を精神性の表れと見,また芸術家がその精神性(内的自然)を自らの作品に凝縮して形成すると考えることによって,ギリシャの人体彫刻をいわば自然以上に自然な産物として定立するのである。このように,「古代人の模倣」という観念そのものはルネサンス以来のトポスとなっていたが,それを「自然」概念に基礎づけるのがヴィンケルマンの新しさであり,それまでの主張以上の説得力をもち得たのもおそらくこの故であると考えられる。これは,あらゆる芸術表現の美の原理を「単純さ、真実さ、自然さ」とするグルックの見解(<Alceste>(1769)への献辞)と響き合う。そこで両者の思想的関係をより大きな思想史的文脈の中で検証するのが年次度以降の課題となろう。
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