1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06610049
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
津上 英輔 成城大学, 文芸学部, 助教授 (80197657)
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Keywords | アリストテレース / プラトーン / グロケイオ / 古典の伝統 / アリストテレース主義 / バトゥ |
Research Abstract |
本研究の目的は,現代の音楽観を相対比することを最終的に目指しつつ,音楽が芸術の範疇に組み入れられる前後の思想の動きを探ることにあった.その前提として,アリストテレースに代表される古代のミ-メ-シスの思想がもともといかなるものであって,18世紀にそれがいかなる変容をこうむったかを見ておくことも,本研究の課題とするところであった.後者の目的は,その前半部分を本年度の研究で達成することができた.すなわち,アリストテレース『詩学』におけるミ-メ-シスの概念は,虚心にテクストを読む限り,感性を通じて直感される美よりは,むしろ再現対象の実相を照らし出すという意味で,むしろ真にかかわることが明らかである.しかしたとえば18世紀のバトゥはアリストテレースのミ-メ-シスをもっぱら美との関係で理解し,こうしてbeaux artsとしての「芸術」概念が確立したと考えられる.これは一種の創造的誤解として,伝統継承のひとつの形態である言うことができよう.そこで次の問題は,このような解釈の偏向を招いた,当時の芸術並びに思想の状況である.現在までに,バトゥに即し,この問題をアリストテレース解釈と音楽の位置づけとの関係に絞って吟味を進め,まとめの段階にさしかかっている.この結果から,古典の伝統が,18世紀の西洋音楽に思想面からいかなるインパクトを与えたかが,具体的に明らかになるであろう.なお,時代的には本研究からやや離れるが,古典思想の継承と変容の視点から,13世紀の音楽理論家グロケイオの『音楽論』を取り上げ,この著者が当時のアリストテレース主義をきわめてよく踏まえていることを明らかにすることができた.
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Research Products
(2 results)