1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06610119
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Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
佐々木 宏子 鳴門教育大学, 学校教育学部, 教授 (20122921)
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Keywords | 絵本 / 絵本心理学 / 絵本データベース |
Research Abstract |
平成6年度・7年度と続いた「絵本の主題分析にもとづく絵本心理学の構築」は、今年度が最終年度であることから、原稿用紙120枚の研究成果報告書(プラス40枚の「子どもの心を理解するための絵本データーベース」検索の基礎資料を添付)をまとめた。現在まで、絵本データの入力数は、約1000冊である。 まず、子どもの発達を個の視点から全的に捉えるために、絵本という伝統的な児童文化財がどのような科学的根拠のもとに、児童心理学のパラダイムとして機能しうるものなのかの理論的考察を試みた。1935年に初めて心理学者の波多野完治によって問題提起された「児童文学の心理学」は、理論的背景は異なるものの臨床心理学者河合隼雄により、子どもの「たましい」を描いて卓越な児童文学者の「物語ること」の心理学的意味の確認へと引き継がれて行く。その流れは、やはり思想的背景は異なるものの浜田寿美男の「物語パラダイム」の構想へとつながる。浜田は、相互主体的に関わる人間が生み出す物語の軸から、シンボルの発生や自我の形成を論じつつ、人間の心的世界の全体を記述することを提起する。 これらの研究者の諸理論、ならびに中村雄二郎の「臨床の知」を踏まえて、優れた作家・画家が創造した絵本が子どもの存在はもちろんのこと、発達というものの成立ちや展開をどのように物語り、描くかを分析・考察することにより「絵本心理学」の構築ができうるという確信に到達した。具体的には、大主題「自我・自己形成」の中の主題〈自己と対話する〉を検索することで32冊の絵本を確認、併せて〈ひとりの時間をもつ〉〈自然と対話する〉の主題と複合させつつ、「子どもが自己と対話する」ことの心理学的意味を詳細に分析・考察することができた。今後は、さらに絵本のデータ数を増やしつつ、「空想遊び」「ユーモア」等、280の主題を軸に「絵本児童心理学」を体系的に構築する予定である。
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[Publications] 佐々木宏子: "ファンタジ-絵本と子ども時代の思い出" 発達. NO.60,Vol.15.53-61 (1994)
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[Publications] 佐々木宏子: "絵本のなかのジェンダー" 季刊「子ども学」. 12(発表予定). (1996)