1996 Fiscal Year Annual Research Report
ジェーン・アダムズの思想とハル・ハウスにおけるセツルメント事業の研究-思想形成、子ども・婦人問題および移民問題への対応-
Project/Area Number |
06610217
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
米澤 正雄 実践女子大学, 文学部, 教授 (20175003)
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Keywords | ジェーン・アダムズ / セツルメント事業(ハル・ハウス) / 革新主義 / アルビオン・W・スモ-ル / シカゴ社会学派 / ジョン・デューイ / 実験学校 / 移民 |
Research Abstract |
本研究は、ジェーン・アダムズの思想とハル・ハウスにおけるセツルメント事業について、彼女の思想形成、子ども・婦人問題および移民問題への対応に焦点をあてて、解明しようとするものである。 今年度は、まず、アダムズの思想と行動に関するアメリカ合衆国および日本の主要な先行研究(1955年のホ-フスタッター『改革の時代』以降、近年に至る)を検討し、その到達点と問題点を示して、本研究の基礎づけを行った[拙稿「ジェーン・アダムズ研究序説」、筑波大学教育思想研究会編『教育と教育思想第17集』、1997年3月刊行予定、参照]。次に、昨年度の本研究では、アダムズの論文「ソーシャル・セツルメントの機能」(1899年)が、創設期のシカゴ大学社会学科による社会学研究・教育におけるセツルメントの位置づけ(社会観察の拠点としてのセツルメント-ハル・ハウスを含む-)への彼女の批判であることを示したが、今年度は、この研究成果をさらに掘り下げた。すなわち、アダムズの上記論文は、1892年シカゴ大学社会学科に赴任したアルビオン・W・スモ-ル(1854-1926)の『社会研究入門』(1894年、シカゴ大学社会学科の同僚ビンセントとの共著)に示された社会学研究・教育の構想および実践への批判であること。そして、この1899年の論文に示された彼女のセツルメントの「定義」とこれにもとづく「労働博物館」の試み(1900年)の前提には、スモ-ルの移民観(社会学の対象としての移民、すなわち、都市のスラムに居住することにより、正常な家族の諸機能を欠如する、「社会病理」の典型としての移民)とは異なる移民観(アメリカ合衆国の新たなデモクラシーの担い手としての移民)があることを示した。そして、当時のシカゴ大学におけるデューイの教育学の構想と実験学校での教育実践(1896-1904年)は、このような、スモ-ルの社会学研究の教育を学的契機とし、アダムズのセツルメント論・事業を実践的契機として、構想・実践されている、との見通しを得た[拙稿「デューイ哲学とシカゴの『異文化共生』問題-スモ-ルおよびアダムズの移民観との対比において」、日本デューイ学会紀要第38号、1997年6月刊行予定、参照]。
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