1994 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06610233
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
海原 徹 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 教授 (00026824)
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Keywords | リテラシイ / 女児の就学率 / 就学強制 / 私塾 / 寺子屋 / 入門簿 / 試験と評価 / 近代学校の補完・代替 |
Research Abstract |
本年度テーマに関して得られた知見は以下のとおりである。1.萩城下の学塾に出入りした中級サムライ以上の子弟が、ほぼ例外なく藩校明倫館に学んだことは、「明倫館御用掛日記」「明倫館御書付並根沙汰控」「明倫館試業賞美事」など一連の学事関係の史料によって分かるが、その実態は、同上の史料が所収する学生の出席日数、選択科目、学業成績などからかなり正確に知ることができる。就学強制の制度を特定することはできなかったが、幕末期にはほとんどそれに近い学習環境が整備され、したがってまた、サムライ階級のリテラシイもかなりハイ・レベルに達していたことが分かる。2.「教育沿革史草稿」「防長風土注進案」などの分析から、萩城下にあった諸種の学塾の実態を網羅的に再構成することができたが、そのほか入門簿等の諸史料から明倫館に学ぶサムライ身分の子弟が同時に複数の学塾に頻繁に出入りしていることが判明した。寺子屋に学ぶ庶民階級の教育については、町屋が並ぶ市街地の場合、女児の就学率がかなりのレベルにあったことが分かる。3.県庁文書に含まれた官吏任免関係の諸史料から萩城下の学塾に学んだ人びとのその後の学歴や職歴をかなり広範かつ長期に及んで知ることができた。この場合も、複数の学塾に掛け持ち的に出入りした状況が判明した。4.旧藩主毛利家や士族就産所を中心に行われた数次の北海道入植に関する送り出し、受け入れ双方の資料調査から、士族のみならず農・町民を含めた萩城下の人びとが相当に高い学力を獲得していたことが知られる。入植地でのきわめて早い学校づくり、教育への取り組みもこうした背景からみると分かりやすい。5.「学制」頒布にともなう近代的な教育制度の構築の一方で、幕末期から継続した多くの学塾が、近代学校の補完物や代替物としてさまざまな人間形成に関わった事実を否定できない。萩城下の場合、多数の寺子屋が整備の遅れた小学校の代替としてかなりおそくまで活躍しており、また杉民治が主宰する松下村塾のような有名私塾になると、20年代の初めまで、中等教育機関的な役割を果たしたことが分かる。
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[Publications] 海原 徹: "教育の原風景-吉田松陰と松下村塾" 日本教育. 218. 6-9 (1994)
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[Publications] 海原 徹: "江戸時代の学費" 日本通史月報. 16. 5-7 (1994)
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[Publications] 海原 徹: "江戸時代の学費" 日本通史月報. 16. 5-7 (1994)神陵史資料研究会:
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[Publications] 海原 徹: "江戸時代の学費" 日本通史月報. 16. 5-7 (1994)神陵史資料研究会: 同朋舎,
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[Publications] 海原 徹: "江戸時代の学費" 日本通史月報. 16. 5-7 (1994)神陵史資料研究会: 同朋舎, "『史料神陵史』(分担執筆)"
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[Publications] 海原 徹: "江戸時代の学費" 日本通史月報. 16. 5-7 (1994)神陵史資料研究会: 同朋舎, "『史料神陵史』(分担執筆)" (1994)
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[Publications] 海原 徹: "江戸時代の学費" 日本通史月報. 16. 5-7 (1994)神陵史資料研究会: 同朋舎, "『史料神陵史』(分担執筆)" (1994)852