1994 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ合衆国における年齢主義進級制の普及と能力の個人差への対応に関する史的研究
Project/Area Number |
06610237
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
宮本 健市郎 兵庫教育大学, 学校教育学部, 助教授 (50229887)
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Keywords | 学年制 / 年齢 / 落第 / 進級 / アメリカ合衆国 / 進歩主義教育 |
Research Abstract |
本研究の課題は二つあった。第一は、20世紀前半のアメリカ合衆国において、年齢主義の進級制が普及した原因を探ることであった。第二は、年齢主義の普及に伴い、多様な能力の生徒が同じ学年に所属することになったとき、各生徒の能力の個人差にたいしてどのような配慮がなされたのかを、明らかにすることであった。研究の結果、第一の課題にたいしては、4つの要因を指摘することができた。ひとつは、19世紀末から20世紀の前半にかけて、人間の年齢を重視する社会的制度が確立しつつあったことである。医療において小児科が成立し、法律においては少年法や少年裁判所が出現し、教育においては各州で義務就学が年齢によって規定された。これらは、幼児、青年、老年など、それぞれの年代に期待される役割が社会制度の中で決定されはじめていたことを意味している。二つめの原因は、落第を削減しなければならないという社会的要請であった。19世紀末から出現した教育長等の教育専門家は、落第は経費の無駄遣いであり、教育の非能率を示すものとみなして、教育行政改革の一環としてその削減のための改革を推し進めたのである。また、かれらは落第は生徒ひとりひとりには心理的抑圧をもたらすという弊害も指摘した。三つ目の原因は、グレイド観の変化である。19世紀までグレイドは教材の習得段階を示すものであった。ところが、20世紀になると、グレイドは、生徒の発達を支援するための方策とみなされるようになった。年齢に応じて進級させることが、生徒の発達をうながすことになるとする考え方が、教育専門家の間に普及したのである。さらに第4の原因として、学校が生徒に期待する能力観の変化である。同一集団を維持し、そのなかで社会性を形成することが学校教育の目的とみなされ、進級の基準を社会的成熟におくようになったのである。本研究の第二の課題については、まだ結論が出ていない。
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