1994 Fiscal Year Annual Research Report
死・葬送・墓・祖先信仰をめぐる現代的課題についての調査研究
Project/Area Number |
06610293
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Research Category |
Grant-in-Aid for General Scientific Research (C)
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
新谷 尚紀 国立歴史民俗博物館, 民俗研究部, 助教授 (80259986)
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Keywords | 葬送儀礼 / 先祖認識 / 位牌 / 石塔 / 浄土真宗 / 火葬 / 死者供養 / 枕石 |
Research Abstract |
平成6年度は、広島県山県郡千代田町、高知県安芸郡馬路村、大分県南海部郡米水津村、の三地域で、死と葬送儀礼、家と先祖認識、仏壇と位牌、墓地の調査を行った。 広島県山県郡千代田町は俗に「安芸門徒」といわれるように浄土真宗の信仰の強い地域のなかにある。阿弥陀仏への絶対帰依を説き、諸々の雑行を捨てよと説く浄土真宗の教義が僧たちによって説き続けられ、その影響と思われる民俗が伝えられている一方で、必ずしも教義の通りには行われていない様々な民俗も伝えられていることが確認された。 たとえば、浄土真宗の影響としては、位牌を作らない、火葬が伝統的である、死者供養を教義上は否定している、などである。しかし、死者供養を教義上は否定しても、盆の墓参はさかんに行われるなど、死者供養の観念と儀礼は根強く存在している。 高知県安芸郡馬路村では、『土佐国安芸郡馬路村風土取縮差出控』という近世の地誌の記事の分析と現行の民俗の比較調査を試みた。馬路村は田地の少ない山村であるが、棺の装飾や埋葬墓地の新墓の作り方など現在も近世の地誌に記されているのとほとんど同じ葬送儀礼が伝承されていることが判明した。日本各地で、1960年以降の生活変化が、多くの民俗を変容または消滅させている中で、この地域に古い伝承が残っている理由についても、今後追跡して行く予定である。 大分県南海部郡米水津村は、豊後水道に面下漁村である。近年まで村内婚が卓越していた地域である。海岸の漁村特有と思われる儀礼も少なからず確認された。たとえば、死者が出るとすぐに浜辺に行き石を拾ってきて死者の枕元に置き枕石と呼ぶ。この石は死者とともに墓地に運ばれ墓地の目印となる。仏教式の石塔とは系譜を異にする死者の石である。以上、三つの地域それぞれに興味深い民俗が確認されてきている。
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