1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06610348
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
新谷 英治 関西大学, 文学部, 助教授 (20187561)
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Keywords | オスマン朝国家 / 支配 / 被支配 / 統治制度 / 遊牧部族連合体制 / 中央集権体制 / イスラーム / ウラマ- |
Research Abstract |
本研究は、オスマン朝国家(1299-1922年)の支配と被支配の関係を、人と制度の両面から再検討し、オスマン朝国家の非トルコ的性格を明らかにすることを目的としている。課題を、A:オスマン朝国家の支配者と被支配者 B:オスマン朝国家における統治制度の特徴とその起源の二サブテーマに分割し、2箇年の第2年度(最終年度)に当たる今年度は、サブテーマBについて検討を進めた。 まず、予備的作業として、初期オスマン朝国家関係文献(オスマン語年代記、文書等)の調査・収集を行っった。その上で読解を進め、パーソナル・コンピューターに基礎データとして入力した。 サブテーマBの考察に当たって設定した主たる検討項目は、 1.オスマン朝国家における遊牧民的部族連合体制の有無 2.オスマン朝国家の中央集権的制度の起源と実態 の二点であった。予備的作業で得られたデータを使用しつつそれらの問題の検討を行った。その結果、 (1)オスマン朝国家においては、突厥、遊牧ウイグル、セルジューク朝あるいはカラ・コユンル(白羊朝)、アク・コユンル(黒羊朝)などのような遊牧部族連合体制の色彩はほとんど認められず、これに代わる支配体制を必要としていた。 (2)オスマン朝国家は当初から中央集権的体制を指向しており、その要因として、 i. オスマン朝は部族連合国家ではなく、従って遊牧的分封制をとっていなかったため、おのずから中央集権的体制を基本的な支配体制として採用せざるを得なかったこと ii.東ローマ帝国との境界域で勢力を拡大したため、東ローマ帝国の各種制度の影響が働いたこと iii.ルーム・セルジューク朝において進展を見た各種制度の影響が働いたこと iv.建国初期から首都ブルサ、エディルネをはじめ領域内に多数のウラマ-(イスラーム世界で学問研究、行政実務に携わった知識人層)が流入し、伝統的なイスラーム世界の中央集権的体制をオスマン朝に伝えたこと などが考えられる。特に、ivのイスラーム世界での中央集権的支配体制の伝統はオスマン朝の体制に大きく作用したと考えられ、支配体制の起源の点でも、また発展の面でも、その果たした役割は大きい。 政府によるウラマ-層の行政への取り込みも徹底している。 このように、オスマン朝は統治制度の面でも他のトルコ系国家とは異なることが確認できた。 以上、前年度の検討結果と併せ考察すると、オスマン朝国家を単純に「トルコ系国家」と呼ぶことには無理がある。むしろ我々は、オスマン朝国家の「非トルコ的性格」に注目せねばならない。
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