1994 Fiscal Year Annual Research Report
冷泉家旧蔵本『成尋阿闍梨母集』の注釈研究と成尋阿闍梨の伝記考証
Project/Area Number |
06610405
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊井 春樹 大阪大学, 文学部, 助教授 (50036175)
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Keywords | 成尋阿闍梨 / 成尋阿闍梨母集 / 渡宋 / 参天台五台山記 / 天台山 / 五台山 |
Research Abstract |
冷泉家旧蔵本『成尋阿闍梨母集』(重要文化財、大阪青山短期大学蔵)を用いての、注釈研究と成尋の伝記研究考証について、今年度は以下のような成果を得ることができた。 (1)『成尋阿闍梨母集』の注釈については、従来は冷泉家本を江戸期に転写した書陵部本でなされてきたが、初めて鎌倉期の書写本を用い、厳密なテキストの読みを経ながら語句の解釈とともに、背景となる時代考証などもすすめていった。とりわけ、諸記録の『扶桑略記』『帥記』、さらに成尋の渡宋日記である『参天台五台山記』等により、作品をより立体的に読解してきた。この成果は、『成尋阿闍梨母集全注釈』として平成7年度内に風間書房から出版する予定である。 (2)成尋阿闍梨の伝記については、『参天台五台山記』を詳細に分析し、日本から中国に渡った道程とともに、大陸における行動を、中国の古地図と詳細に照合しながら、その足跡の確認作業を進めてきた。延久4年(1072)3月15日に肥前国壁島で宋船に乗り込んで以降、翌年6月12日に帰国する僧達に託した日記で、成尋は一日も欠かすこくなく記録している。道筋だけではなく、訪れた各場所でのさまざまな体験、風物、食物、人物なども書き留めており、今日からすれば貴重な記録といえよう。 (3)『参天台五台山記』には、成尋はしきりに夢についての記録に言及する。成尋に『夢記』なる作品が存していたこと、それが彼の人生にどのような意義を持っていたのかを考察し、「成尋阿闍梨の夢と『夢記』」(「語文」第62.63輯、平成7年1月)としてまとめた。
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