1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06610473
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 和彦 京都大学, 文学部, 教授 (90183699)
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Keywords | ヒッタイト語 / 歴史言語学 / 音法則 / 類推 / 動詞体系 |
Research Abstract |
ヒッタイト語では、1人称と2人称の現在複数形の語尾として、通常の-weniと-teni以外に、-waniと-taniという語尾が少数ながら記録されている。この1人称複数-waniと2人称複数-taniという現在語尾については、いくつかの歴史的な説明が試みられてきた。例えば、ルウィ語からの借用とする説、-taniを*th_2en-iという祖形から直接導き、-waniのaを-taniからの類推によるとする説、祖形に零階梯の*-wn、*-tn(>*-wan、*-tan)を建て、それに1次語尾に特有の小辞*-iが付与されたとみなす説などである。しかしながら、これらの試みのいずれも、対応する過去語尾が常に-wen、-tenであり、-wan、-tanが決して現われない事実を説明することができない。また、最近Melchertが提案した、アクセントの落ちない*eは開音節においてaになるという音法則は、-waniと-taniという語尾が弱形において語尾にアクセントの落ちないタイプに限られているという独自の分布をよく説明するが、それでも、何故過去語尾に-wen、-tenが一般化されているのかという問題が残される。 筆者は、アクセントの落ちない*-eN♯は-aN♯になるのに対して、アクセントの落ちる*-eN♯はヒッタイト語で-eN♯になるという音変化を提案したい。この規則によって、ヒッタイト語の語根クラス動詞の複数1人称と2人称の過去語尾は-wen、-ten(<*-wen、*-ten)で現われることになり、**-wan、**-tanを駆逐する源を過去形のパラダイム内部に得ることができる。また、現在形において-wani、-taniが存続したのに対して、過去形において-wen、-tenが一般化された理由は、3人称複数の現在語尾-anziと過去語尾-erの母音の音色の影響と考えることができる。
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[Publications] 吉田和彦: "H. Craig Melchert, Anatolian Historical Phonology(書評論文)" 言語研究. 108. 94-107 (1995)
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[Publications] Yoshida, Kazuhiko: "A further remark on the Hittite verbal endings 1pl. -wani and 2pl. -tani" Journal of Indo-European Studies. (印刷中).
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[Publications] 吉田和彦: "言葉を復元する-比較言語学の世界" 三省堂, 192 (1996)