1994 Fiscal Year Annual Research Report
古代ギリシャ散文の文体-とくに演説と演説以外の散文の間の異同
Project/Area Number |
06610485
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
柳沼 重剛 大妻女子大学, 社会情報学部, 教授 (70055705)
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Keywords | 聴衆 / 個人の読者 / 文の主語 / -sis名詞 / 不定法 |
Research Abstract |
かつてすべての著作は、最初に発表されるときは聴衆に聞かせるという方法によっていたが、ある時からそうでなくなった。これは読みのあり方がまったく変わったことを意味するが、それは文体の変化としても表れているはずだと期待した。そしてその変化を、聞いただけで分かる文章から、聞いただけでは分からない文章への変化としてとらえようと試みた。この変化にもいくつかの要因があるが、今年度は、古典期のギリシア語の慣用に反する語法(慣用に反しているゆえに聞いただけでは分かりにくい)のうち、主語となる語(句)の種類、および-sis名詞(ただし学術用語として新造された-sis名詞を省く)の用例を検討した。比較の対象としては、トゥキュディデスと、彼らに劣らず複雑な構文の文章を書いた弁論家、とくにアンティポンとデモステネスを選んだ。なぜなら、弁論家の文章はまず聞かれたのであるから、ただ構文が複雑なだけなら聞いただけで分かるには何の支障もなかったと言えるとともに、これらの弁論家の文章にはなくてトゥキュディデスの文章にはある特性を見いだせば、それが、聞いただけでは分からず、繰り返し読むことによってはじめて、著者の意図や思考を読み取ることができる文章の要因と考えることができるはずだからである。その結果、-sis名詞を主語にする文章は、弁論家では、多い時でもトゥキュディデスの半分以下、しかも次第に減少する傾向があること、動詞の不定法に定冠詞をつけて主語にするのも、弁論家ではほとんどその用例がないのに、トゥキュディデスではかなり頻繁であることが分かった(この点は、哲学者の文章にも用例が多い。彼らの場合は、不定法どころか副詞(句)に冠詞をつけて主語にしている例も少なくない)。ゆえに、トゥキュディデスは聴衆ではなく個人の読者を想定して文を書いた可能性があると論じた。
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Research Products
(1 results)