1994 Fiscal Year Annual Research Report
古典的コモン・ロ-の完成とその変質-ブラックストン法学の史的背景-
Project/Area Number |
06620001
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小山 貞夫 東北大学, 法学部, 教授 (30005764)
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Keywords | ブラックストン / イングランド法釈義 / ベンタム / コモン・ロ- / 法改革 / イギリス革命 / 産業革命 / 18世紀 |
Research Abstract |
W.ブラックストンの著作である『イングランド法釈義』全4巻(1765〜69年)は、古典的コモン・ロ-の全体を概説したものとしてきわめて著名であるが、現在では我国はもちろん英米においても法学・歴史学の専門家によってすら通読されることはない。読まれることがあるとすれば、専ら19世紀イギリスの法改革のイデオローグとしてのJ.ベンタムによる激烈なブラックストン批判に賛意を示すか、あるいはその批判箇所の確認のためだけである。それほど『釈義』の現代的意義は評価されていないと言って良いであろう。 しかし、この一年間丁寧に『釈義』を通読し、その内在的意義を確認した限りでは、このような態度=怠慢が許されぬことを知った。この点は、『釈義』が17世紀の『革命』以後のイギリスが理想とした自由主義・民主主義・個人主義を代弁しており、したがってその叙述から現在の我国でも多くのことを学びうること、決してベンタムの非難した単純な守旧主義ではないこと-これは、『釈義』が現行法の叙述であることから当然出てくる現状容認的色彩への誤解も一因となっているかもしれない-にも見られる。しかしなによりも、『釈義』が、制定法・判例の中に散乱した状態であったコモン・ロ-実体法全体を手続きと切り離してやさしく解説したことから、それまでの手続重視のコモン・ロ-から実体法中心の思考すなわち近代的法思考を生み出して行くきっかけを作ったのではないかと考えられる点にある。もしこの推定が正しいとするならば、『釈義』は単に古典的コモン・ロ-の完成だけではなく、正に英米法の近代化の出発点を画すことになろうし、ベンタムもこの出発点がなければ、自らの発想する持ちえなかったとさえ言えよう。 このことと、当時のイギリスの社会の実態との具体的関連の探究は、次年度の課題である。
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