1994 Fiscal Year Annual Research Report
古拙法から学問法へ-裁判文書、とくに開廷儀式文言から見た西洋中世法の変革-
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06620005
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
若曽根 健治 熊本大学, 法学部, 教授 (40039970)
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Keywords | 贖罪と刑罰 / 学識裁判 / 職権手続き / 言葉による応酬 / キリスト教=倫理的刑法 / 宣誓と儀式 / 法の回復 / 法の獲得と法の授与 |
Research Abstract |
西洋法の性格は、第十一世紀から十二世紀にかけて、古拙法から学問法に変わる。では、法の変化は裁判や訴訟においてどのように現れていたのであろうか。本年度はこの点にしぼって考えた。 その結果として、一つは、一三四三年南ドイツで、牛を盗んだ父親を息子が殺した事件の裁判において、二つの観念が、いずれも他方を圧倒することなく同居していた。一つは、盗みによって毀損された法を治癒するといった、法をいわば自動装置とみる思考方法。もう一つは、父親殺しという息子の行為をキリスト教的、倫理的判断を加えて断罪評価しようとする思考方法である。私はこの事件を取り上げたハッテンハウア-教授の一論稿を『熊本法学』84号(1995年9月発行予定)で邦訳し、あわせて詳細な解説を付すことで、新旧法観念の同居現象の有する意味を明らかにする予定でいる。 もう一つ、法の性格の変化は、裁判形態の変遷に関係していた。これを具体的に示す文書の一つに、魔女被告事件を述べた一六○四年の、ゲンゲンバッハ市に関わる復讐断念の誓約文書がある。ここでは、当初告訴手続きで始まった訴訟は、第二段階で職権手続きによって引き継がれていた。第一段階の告訴手続きにおいては、当事者の激しい、言葉の応酬による弁論を中心として古拙法が展開していた。しかるに、都市当局は、この法によっては事件が解決困難と考えて、これ以上当事者手続きに委ねずに、法鑑定によった学識裁判に判断をまかせた。ここでは、とくに証明問題が、職権による調査に依存した。以上については、『熊本法学』83号(1995年6月発行予定)掲載の拙稿をみられたい。 以上の二事例は、西洋法の性格がまさに変わろうとする時期のものではないが、これら現実に起きた代表的な裁判を通して中世盛期における法の変遷に関して一定のイメージをえることはできる。
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Research Products
(2 results)