1994 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀初頭イギリスにおける住宅組合と住宅保有態様の転換
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06630065
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Research Institution | Hannan University |
Principal Investigator |
島 浩二 阪南大学, 商学部, 教授 (90131490)
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Keywords | イギリス住宅組合 / 貯蓄銀行 / スター=バウケット型組合 / 住宅テニュアー |
Research Abstract |
本年度は、これまで蓄積されてきた「住宅組合に関する統計」(1895年版と1905年版)に収められた諸情報のデータベース化作業を完成させ、全体的な調整と、地域別・組合種類別・年代別などの各組合の経営状態の比較など、1993年以来継続されてきた作業をほぼ終了した。この作業結果から特に労働者階級を主たる顧客とする貯蓄機関としての住宅組合の性格に的を絞り、同時代の貯蓄銀行との間で、両者の間にいかなる差異が認められたか、主な利用者たる労働者階級はそれをどのように認識していたか、という点の解明を行った。その結果、貯蓄銀行は経営の実態がきわめて杜撰であるなどのよく知られた点はしばらくおくとして、貯蓄銀行での貯蓄が一般にきわめて頻繁に引き出され(貯蓄期間が短く)、すなわち近い将来の消費に備えた貯蓄としての特質が強く、そこでは住宅組合にみられるような、倹約の習慣と自助精神を奨励する長期に亘る貯蓄は希であるとの認識が広く流布していること、また住宅組合の統計からはその点を示唆する緩やかな傾向を読みとることもできること、などが明らかになった。この点は、従来のイギリス金融機関や協同組合の歴史研究において明確に意識されてこなかった視点であって、同時代に発展する数多くの類似の協同組合的団体を範疇的に整理するための重要な視角となろう。また住宅組合自体が、今世紀に入って、スター=バウケット型を切り捨てて大型化・営利化の道を歩みながら、同時に労働者階級に対する住宅機関としての路線を捨てきれなかった(このような二重性が、今日のイギリス住宅組合の特質を形成しているとみられる)という点の由来を説明する重要な要素ともいえよう。こうした点について1995年12月出版予定の『資本主義の形成と展開』(大阪経済大学教授本多三郎編集、青木書店)掲載の拙稿「一九世紀末イギリス協同組合運動における住宅組合の位置」(仮題)で論じている(ただし本書は複数の執筆者が阪神大震災で被災したため、出版時期の大幅な遅れが予想される)。
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