1995 Fiscal Year Annual Research Report
HOPG表面に吸着した希ガスにおける陽電子寿命の研究
Project/Area Number |
06640516
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
東 俊行 東京大学, 教養学部, 助手 (70212529)
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Keywords | 陽電子消滅 / 陽電子ビーム / 陽電子表面状態 / オージェ電子分光 |
Research Abstract |
従来、パルス式エネルギー可変の陽電子ビームを用いてHOPG表面上での陽電子寿命スペクトル測定を行ってきた。これにより、陽電子が表面近傍に止まった条件下で、陽電子の表面電子密度を反映した特異的な寿命変化が観測できる。その結果、本研究を開始する以前には、バルクと異なる長い陽電子寿命が観測され、表面を加熱すると、この陽電子寿命が短くなり、しかも真空中にポジトロニウムが飛び出すことから、陽電子が表面に束縛された状態が存在し、加熱により表面状態から励起され、最終的に電子を捕まえて真空中へポジトロニウムとして飛び出すものと解釈していた。 ところが、超高真空条件下で陽電子消滅オージェ分光を導入した本研究により、実は以前の仮説が表面吸着物による結果であることを見いだした。すなわち、通常の電子線によるオージェ分光によっては、不純物の観測されない清浄と思われる試料を使って、(1)陽電子寿命測定、(2)陽電子・電子対消滅ガンマ線のエネルギー広がり及び陽電子寿命の長寿命成分の測定によるポジトロニウムの生成量観測、そして今回新たに、(3)陽電子が表面上の原子内の内核電子と対消滅することによって空孔ができることを利用する陽電子オージェ電子分光を同時に行った。 その結果、清浄と思われていた表面でも酸素原子による信号がHOPGの構成原子である炭素原子によるものとともにはっきりと確認された。陽電子が常温でごく微量に吸着した酸素あるいは水分子の酸素に集まっていると予想される。試料を高温にしたとき、上述の酸素の信号強度は小さくなり、それとともに陽電子寿命は短くなり、放出されるポジトロニウム量も増大した。このような明確な相関から、今まで表面での陽電子の挙動がはっきりしていなかったのは、実は、通常のオージェ電子分光の検出限界以下の吸着物のためであることがこれで明らかになった。 陽電子オージェ電子分光によって、実用上有意義である酸素原子等の軽い原子が測定可能なのは、ビーム強度の問題からパルスビームを利用している我々のみであり、今回の測定が、世界で初めての観測結果である。しかも通常の電子線オージェ分光で観測されない微量の酸素を、非常に高い感度で観測していることになる。これは超低濃度の不純物を検出する表面診断のプローブとしてこの手法が非常に有力であることを示唆している。
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