1995 Fiscal Year Annual Research Report
環境適応における形態の役割-雪圧に対する常緑低木の場合
Project/Area Number |
06640824
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
伊野 良夫 早稲田大学, 教育学部, 教授 (30063697)
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Keywords | 環境適応 / 雪ストレス / 常緑低木 / 可塑性 / 糖含有率 |
Research Abstract |
多雪地の林床に生育するヒメアオキ、エゾユズリハ、ユキツバキなどは冬期に大きな雪圧によって、地表面に押しつぶされた状態になる。春になり、かなりの雪が溶けると、圧迫されていたシュートは上部の雪をはねのけて立ち上がり、まだ葉をつけていない上層木を通して入射する強い太陽光を利用し、越冬していた葉を使って物質生産を行う。このように多雪に対するレスポンスを行うには雪圧に対して抵抗せず地表に伏す柔軟さと、少々の雪をはねのける弾力とが必要である。しかし、この二つの性質は相反するものであり、ある閾値をもってシュートが反応するか、秋には柔軟であるが、雪に埋もれている間に弾力性を獲得するかどちらかであるように推測される。 上記3種のシュート先端部を新潟県松代町のブナ林で平成7年5月、9月、11月に各20〜30本サンプリングした。茎の先端から20cmの位置を固定し、先端に50gあるいは100gの分銅を下げ、茎の曲がり程度を測定した。その後、20cm位置で茎を切断し、先端部の齢構成、中央径、生重を測定した。比較のために、神奈川県横須賀市の山林でアオキとヤブツバキのシュートを同時期に各20〜30本サンプリング、同様に測定した。ユズリハあるいはヒメユズリハは太平洋側では高木になるので、エゾユズリハとの比較はできなかった。 ヒメアオキ、ユキツバキでは11あるいは12月と5月の茎の性質はあまり違わなかった。これらをアオキ、ヤブツバキと比較すると生重の増加に対する曲がりにくさの増大は大きく、枝の肥大が木化とつながっていることが明らかであった。これは多雪地の種がエイジングによって柔軟性を失わないのに対し、少雪地の種は弾性を失っていくことを示している。ヒメアオキ、ユキツバキはやわらかさと弾力を維持することによって多雪環境に適応していると推測した。一方、エゾユズリハでは12月の枝にはやわらかさがあったが、5月の枝では著しく曲がりにくくなっていて、雪に埋もれている間に枝に構造上の変化があったことが推測された。
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