1994 Fiscal Year Annual Research Report
匂い環境によりラット嗅覚神経系のシナプスに生ずる可塑的変化の形態学的解析
Project/Area Number |
06640871
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute for Neuroscience |
Principal Investigator |
市川 眞澄 (財)東京都神経科学総合研究所, 解剖発生学研究部門, 主任研究員 (20124414)
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Keywords | 嗅覚 / フェロモン / 鋤鼻神経 / シナプス / 可塑性 |
Research Abstract |
神経回路を形成するニューロン間の接点であるシナプスは、脳内外の影響を受けて構造に変化を起こすことが知られている。このシナプスの可塑性はさまざまな環境要因によって生じることが確認されている。これまでの研究によって、匂いのなかでもフェロモンが鋤鼻嗅覚系のシナプスの可塑性に影響を与えることを示唆する結果を得た。そこで、本年度はフェロモンの受容、情報伝達、機能発現に深く関与する鋤鼻嗅覚系神経路に着目し、フェロモン刺激とシナプス可塑性の関係ついて明らかにすることを目的として、以下の研究をおこなった。 雄動物にフェロモン効果を最も強く引き起こすのは尿を含めた雌の分泌物であると考えられている。一方、鋤鼻嗅覚系神経路のうち最も鋤鼻器官からの入力の影響を強く受けているのは、鋤鼻感覚細胞と第一中枢である副嗅球内ニューロンとの間に存在するシナプス、すなわち副嗅球の糸球体層に存在するシナプスである。そこで、(1)雌の床敷(尿を含めた雌の分泌物がおおく含まれる)に暴露された雄ハムスターの群と非暴露群における副嗅球の糸球体層に存在するシナプスを電子顕微鏡を用いて観察し、両群間の差を形態学的に比較検討した。(2)雌の尿のみに暴露された雄ハムスターの群と非暴露群の間で同様の検討を行なった。 この結果、(1)(2)とも暴露群のシナプスのサイズが非暴露群に比べて大きくなっていることがわかった。このことは、より多くの刺激を受けた脳部位のシナプスはその形態が可塑的に変化する、すなわち強い刺激をうけたシナプスはそのサイズが大きくなることを示めしている。 今後は卵巣摘出雌の尿(フェロモン量が少ない)に暴露されたハムスター群とほかの正常の尿暴露群および非暴露群の間で同様の検討を行なう。これらの実験により、さらに鋤鼻器官からの刺激入力によってのみ副嗅球のシナプスに可塑的変化がおきるという作業仮説を検証し、一方行動学的にも可塑的な変化が生じているかを明かにする。
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