Research Abstract |
1.生息密度:出現個体数の季節変動の年次推移と活動期間(4月後半〜12月前半)内出現個体数・毎分出現頻度〔表1〕は92年まで増多し,以後減少し続けている。2.孵化の遅延:例年7月頃孵化する当年仔(新生仔)数を反映する夏季の小型個体出現率は92年以後減少,94年には激後減9月に急増して孵化の著しい遅延と年内の発育不足が示唆された。3.寒冷馴化:大発生勃発当初,ヒトを襲うのは気温15℃以上に限られ,13℃以下では索餌運動せず,大多数が晩秋の頃地中に潜って越冬したが,厳寒期にシカに体外寄生してきて満腹吸血後離落しても潜土できない少数個体が,転石下や落板裏に付着して越冬中に厳寒期靜居個体として発見されていた。ところが94年末には,気温13℃以下にも拘らず,11/22:49匹,12/4:13匹発見された個体は全て,索餌運動して襲来する活動個体で,靜居個体は発見されなかった。そこで,実験室へ持ち帰って耐寒冷能を検討した結果,3℃でも匍匐可能で呼気に反応したのは,寒冷馴化して最近獲得した能力と思われた。4.食餌ありつき頻度:脊椎動物の赤色血液(タール様黒色で〓嚢内貯溜)の保有頻度は94年夏には93年夏よりも寧ろ高率であったが,秋以後はほとんど吸血にありつけず,厳寒期靜居個体(大抵飽血)が発見されなかったことは,シカ出現の激減から当然な今冬(94年末〜95年始)の特徴でもあった。5.環境条件:94年の気象では夏の猛暑,渇水,台風多発,暖冬などが特徴とされたが,定点調査中の気温,比湿は例年と大差なく,旱魃もなく,雨水のpH〔6.36(5.8〜7.4)〕も,雨水中のC1イオン濃度〔8.3〜39.2mg/1,海水由来食塩13.7〜64.6mg/1相当〕もヒルへの急性影響は無視できた。当地域のシカ生息密度の激減〔36.8(92年)→15.9頭/km^2;県自然保護課〕は,異常と察知された環境変化(例:ヘビ不出現)とともに大繁殖抑制の一因となったと思われる。6.遠隔の生息域:秋田県南部ではヒルの繁殖と住民の被害が激減し,神奈川県丹沢低山地帯ではヒル・シカとも出現増加傾向にあり,宮城県金華山ではシカだけが例年通り吸血されている。7.悪石島のヤマビル:吐〓喇列島南端の宝島・小宝島と渡瀬線の北側に位置する島で,サキシマヤマビル(八重山産)類似の別種(新亜種?)の生息を確認,島民は雨期に吸血被害を受けると聞き,医動物学的特性を検討した。8.今後の展望:南房総では異常大繁殖とそれに伴う被害は終息に至っても,速やかに84年以前のような非生息域に戻ることはなく,当分〜半永久的にヤマビルの通常生息域化(旧生息域の拡大)する可能性が予測される。
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