Research Abstract |
平成6年度は、頭部外傷に基づく神経線維(軸索・髄鞘)の形態的変化を観察し,神経線維損傷の早期診断が可能であるか否かについて検討を加えた。 法医解剖例29例の脳梁・脳幹部などの標本を用い,パラフィン切片を作製し,HE,KB染色に加え,Holmes鍍銀法やneurofilament蛋白等に対する抗体を用いた免疫組織化学によって軸索を染色し,さらにLuxol Fast Blueによって髄鞘を重染色して観察した。 その結果,頭部外傷受傷後2日以上生存した例の脳梁には,軸索のretraction ball(RB)や髄鞘成分の球状化像(myelin globoid)が多数認められた。より早期に死亡した例では明らかなRBは認められなかったものの,受傷後5時間生存した例では,軸索の腫大像,数珠状あるいはソ-セージ様の大小不同像,蛇行像といった3所見が揃って認められた。受傷後30分以内に死亡した例では,脳梁に出血が存在しても,軸索の腫大は明らかでなかった。次に,頭部外傷を伴わない例では,脳梁に出血なく,部分的に腫大あるいは蛇行した軸索がみられることはあっても,前記した腫大,大小不同,蛇行の3所見が揃って認められることはなかった。なお,これらの軸索・髄鞘変化と,死後経過時間,頭蓋骨骨折やlucid intervalの有無等との間に明らかな関連性を認めなかった。 一般に,損傷による軸索の変化(RB)は,通常の組織学的検査では,受傷後12時間以上経過しないと明らかにならないとされている。しかしながら,それ以前に死亡した例においても,ある程度の期間生存していた場合には,軸索の変化像の分布や頻度を検討し,さらに脳梁や脳幹等の出血の有無,髄鞘の所見,受傷から死亡までの臨床経過等を総合すれば,軸索損傷の診断が可能ではないかと考え,さらに検討を進めている。
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