1995 Fiscal Year Annual Research Report
聴覚障害者の基本的音響情報処理能力と音声聴取能力との関係
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06671722
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Research Institution | Kyushu Institute of Design |
Principal Investigator |
津村 尚志 九州芸術工科大学, 芸術工学部, 教授 (20038962)
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Keywords | 聴覚障害 / 時間分解能 / 周波数分解能 / ラウドネス特性 / 音節明瞭度 / 模擬難聴 |
Research Abstract |
軽度から中程度の感音性難聴で、かつ高音漸傾形のオ-ジオグラムを示す聴覚障害者について、基本的音響情報処理能力と音声聴取能力との関係を調べた。一般に、感音性難聴者は音響パワーが小さく過渡的な子音の聴取が困難であることから、前後母音環境下の子音認識に注目した。用いた音声は、VCV音節で、先行母音、後続母音ともに/a/で、子音は14種類とした。 1 VCV音節内のVC間の空隙時間間隔(0,50,100ms)を変えて子音明瞭度と異聴を調べた。聴覚障害者では、破裂子音/d/と/t/のとき、空隙時間が長くなると子音明瞭度が有意に上昇するが、/b/では明瞭度は低いままで殆ど/p/へ異聴された。明瞭度の低い子音は、破裂子音が多く、異聴は異なる調音点で起こった。健聴者では、明瞭度は全ての条件で殆ど100%で、異聴もなかった。なお、時間分解能の指標としてのギャップ検出閾は、聴覚障害者(1名)、健聴者(4名)それぞれ4ms、2msであった。この結果は、聴覚障害者の時間分解能の低下により、先行母音による前向性マスキングの及ぼす時間が長くなることにより、子音認識が困難になることを示唆している。 2 聴覚障害者の基本的音響情報処理特性として時間分解能、周波数分解能、ラウドネス特性の模擬難聴を健聴者に施し、聴覚障害者の音声聴取結果と比較検討した。時間分解能として振幅変調伝達特性、周波数分解能として周波数軸上にギャップをもつマスキングノイズによる鈍音のマスキング特性から求めた聴覚フィルタ特性を採用した。模擬難聴処理を施した健聴者(3名)と、難聴者(1名)の子音明瞭度及び異聴の結果から、音素弁別特性に基づく音素グル-ピングを行ない、それぞれの弁別素性ごとの情報伝達度を検討したところ、上記3つの音響情報処理特性全てを組み合わせて模擬した結果が最もよく聴覚障害者の音声聴取特性を再現した。また、この聴覚障害者の場合、時間分解能の子音明瞭度に及ばす影響は比較的小さいと推察された。
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[Publications] 大崎美穂: "聴覚の時間分解能について-信号帯域に含まれる聴覚フィルタ数のギャップ検知閾への影響-" 日本音響学会講演論文集(平成7年秋季). I. 457-458 (1995)
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[Publications] 嘉山 啓: "ラウドネス特性に注目した模擬難聴に関する基礎的研究" 日本音響学会講演論文集(平成7年秋季). I. 471-472 (1995)
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[Publications] 大崎美穂: "ギャップ検知に及ぼす優位な周波数帯域の考察" 日本音響学会聴覚研究会資料. H-95-81. 9-15 (1995)
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[Publications] 嘉山 啓: "ラウドネス特性に着目した模擬難聴に関する研究" 日本音響学会聴覚研究会資料. H-95-82. 17-22 (1995)
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[Publications] 松下伸也: "難聴者の聴覚基本特性と音声聴取能力との関係-難聴者の結果と模擬難聴による結果との比較-" 日本音響学会講演論文集(平成8年春季). I. 429-430 (1996)