Research Abstract |
1.ラット大腸にトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)あるいは酢酸の注腸,デキストラン硫酸(DSS,MW25,000)の任意摂取により,炎症性腸疾患モデルを作成した.2.本科研費により購入した実体顕微鏡下に,粘膜筋層を剥離し,また必要に応じて,外的刺激による変動原因となる神経系を切除した上皮細胞のみからなる粘膜セグメントを調製した.3.炎症度の肉眼観察から,10段階のスコアーを付け,他方では2のセグメントから,膜電位(PD)、短絡電流(Isc),膜抵抗(Rm)を求め比較した.TNBS及び酢酸モデルでは,3つのパラメータとも炎症度により減少し,これらの減少とスコアーの増大との間にそれぞれ良好な相関関係が認められた.ただし,スコアーがゼロで見かけ上は炎症が回復している場合でも,各パラメータは正常値には回復していないことから,炎症時の膜の生理学的機能の評価方法として,客観的かつ鋭便な定量的評価法として,上記の電気生理学的手法が有用であることが示された.DSSモデルの結果では,上記の相関はなく,ラットでは病態モデルが作成しにくいという従来の報告と一致していた.4.TNBSモデルでは炎症発生直後から約8週間にわたり、パラメータは正常値よりも低下した.酢酸モデルでは炎症発生7日目にはパラメータは正常に戻り,スコアーもゼロに低下し自然治癒が観察された.一方,細胞間隙ルート透過物質であるFITC-デキストラン(FD,MW4000)の透過性も,酢酸モデルの1日目では正常値の約2倍に増大し,7日目には正常値へ回復しており,電気生理学的パラメータと透過性さらにスコアーがよく対応していた.従って,炎症時には,特に水溶性高分子物質FDの粘膜透過性,恐らく細胞間隙経路透過性が亢進していることが示された.本年の炎症性腸疾患モデルにおける結果をもとに、次年度は薬物副作用時に起こる粘膜炎症についての検討を計画している.また,細胞内経路の透過性変化についての検討も,合わせ計画中である.
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