Research Abstract |
蛋白質の立体構造形成の中間状態を予測し,その構造安定化の機構を明らかにすることを目的として,以下の研究を行ってきた。 1.モルテン・グロビュル(MG)状態の分子構造予測 MG状態は,折り畳み中間状態と類似の空間構造をもち,(1)天然状態に近い2次構造をもつ,(2)空間的な広がりがコンパクトである,(3)疎水核をもつ等の特徴を示す。我々は,これらの事実を考慮して,天然(N)状態から立体構造を壊していく過程を計算機上に再現し,水和自由エネルギーの上昇が最小となる経路上にMG状態が存在するとして,MG状態の構造予測を行う方法を開発した。その際分子鎖を,10個程度のセグメントに分割して,可能な中間状態数を制限する束縛折り畳みモジュール・モデルを提案した。この手法をα-lactalbuminに適用した結果,B,Cヘリックスとその回りの分子鎖が折り畳まれた構造が,MG状態の候補として予測された。この結果は,HD交換NMRの結果とも一致しており,MG状態の安定化に,疎水効果が重要であることを示すものである。 立体構造安定化に対する解離基間クローン相互作用の寄与の解析 cytochromecやα-lactalbuminは,酸性pHでN→MG状態転移を示すことが知られており,立体構造安定化に解離基間のクーロン相互作用が重要な役割を果たしていることが示唆される。そこでまず,天然蛋白質の解離基の正負電荷を,各々の個数は変えずにシャフルして可能な全ての分子を生成させてクーロンエネルギーU_Cを計算することにより,分子表面における解離基の分布の効果を調べた。その結果,天然蛋白質の解離基の分布はランダムでななく,U_Cを低くするように配置されていることが見い出された。 また,蛋白質の総表面電荷量に対するU_Cの依存性を調べるために,cytochrome cのリシン残基の正電荷を1個ずつ中性化したとき生成される全ての分子種についてU_Cを計算した。その結果,U_Cの平均値は正負の電荷が同数となる点で最低値に達するが,各値は電荷の表面分布に依存することを明らかにした。前者の結果は,Gotoらによる実測とは食い違い,中性pHにおける表面電荷の中性化の効果は,単純な解離基間の静電効果のみではないことが明らかになった。
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