Research Abstract |
まず、数値解析の定式化を行った。解析対象は,粘性を持つ個体の弾性波の非定常問題である。ここでは,弾性定数,粘性係数が周波数に依存しないと仮定した。解析手法は,差分法の陽公式を使った。これは,大きな連立方程式を解かなくても良いようにと考えたからである。定式化は,フックの法則と運動方程式に直接かえる飛び差分を適用して行った。これは,境界条件の設定が容易であること,定式化が簡単であることなどの理由による。基本的な例題で,解析結果の妥当性を確かめた。 次いで,具体的な解析対象の取り掛かりとして,生体の横波弾性波,弾性表面波の発生,伝搬について検討した。一般に,超音波診断,治療では縦波が利用され,横波は無視される。しかし,低い周波数では,伝搬する可能性があり,縦波との相互利用がはかれれば,医療手段の広がりが期待できる。最初に,「固体」を数値解析の定式化の対象にしたのはこのためである。まず解析的手法により“横波平面波,弾性表面波は,数10kHz付近で,縦波に近い伝搬が可能である"ことを確認した。更に,開発した数値計算法で励振及び伝搬特性を解析したところ,先の解析通り伝搬可能であることがわかった。従って,治療への応用の可能性が示されたと考える。これは,他に例のない研究と考えたので,関係する学術発表会にて発表した。 ところで,この解析では,弾性定数・粘性係数が周波数に依存しないなど多くの理想化をしている。従って,実験的な検討が欠かせないと思う。そこで,その準備を行っている。更に今後,より様々な角度から,生体内の弾性波の挙動に 対して,数値解析の可能性と有効性を模索したい。例えば,媒質の不均一性の影響,超音波顕微鏡による生体組織の観測特性,非線形性の影響といった事項を考えている。
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