1994 Fiscal Year Annual Research Report
フランス・スピリチュアリスムの歴史的研究および認識と行為の具体的連関の考察
Project/Area Number |
06710004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 克也 東京大学, 文学部, 助手 (50251377)
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Keywords | フランス・スピリチュアリスム / 反省の哲学 / 行為 / カント / ナベール / 注意 / 意志 / 人格 |
Research Abstract |
本研究は、カントの哲学がフランス語圏でどのように受容され、どのような思想的発展につながったかという問題への関心に始まり、広い意味でフランス・スピリチュアリスムと呼ばれる思想群の中に、特にジャン・ナベールの反省の哲学における自己認識と行為との相即的関連の語られ方の内に、この思想的発展を探ることを目的としていた。実際には、フランス・スピリチュアリスムという思想群は多岐に渡るので、研究作業はその内のごく限られた領域のみに限定されたものとなったが、それでも以下のような知見を成果として得ることができた。まずカントとの関連で言えば、彼の認識論思想が注意という心の能動的な能力に着目しながら一面説明可能であるということが認識され、また、その点においてはボネやコンディヤックというフランス語圏の哲学者を含む同時代の多くの思想家たちと経験的心理学の地平で問題を共有していることが判明した。しかし、カントの思想のエッセンスはもちろんそうした経験的心理学的領域にあるのではなく、心理学的要素に還元されない人格的なものを擁護する点にあったと考えられる訳だが、そうした観点こそがフランス・スピリチュアリスムの哲学者たちの継承・発展させようとしているものである。ナベールの優れた点は、そうした人格的なものをカントのように現象界・英知界という割合単純な二元論の一項に帰属させて語るのではなく、人間の有限な自己認識の進展過程に即して人格的・精神的なものの顕現と喪失の力学を記述し、かくして意志や欲望という概念を基軸とした自我の自己経験についての哲学を試みたことである。しかし、悪、苦しみの感情、人格性等のナベール的な問題を共有している二十世紀の思想家は少なくないということも分かった。そうした思潮(反省の哲学や人格主義)の歴史的研究の整備と、現代から見た評価の作業とが、今後は更に必要であろう。
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