1994 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06710008
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊東 貴之 東京大学, 教養学部, 助手 (20251499)
|
Keywords | 朱子学 / 礼教 / 経世致用 / 顔朱子派 / 考証学 / 封建論 / 群県論 / 東林派 |
Research Abstract |
本研究においては、まずこの時期に関する先行諸研究の有した問題意識や視角を検討することを通じて、それらが看過してきた諸問題を明らかにすることを試みた。すなわち従来の思想史研究においては、朱子学や陽明学に関する既成の固定的なイメージに依拠して立論が組み立てられ、それらが歴史的に変容しつつ推移していった過程が必ずしも正確に迹づけられなかったこと、又、同一の思想を標榜する人びとの間にあっても、具体的な政治論においても地域的な偏差が顕著に存在することなどが等閑視されてきたことを明らかにした。その上で、清代初期に見られた朱子学の復興現象をその社会的思想史的意味に留意しつつ検証した。その際、特に個別的な政治理論を中心にそれぞれの思想の地域的特性を闡明することを心掛けた。こうした研究を通じて、この時期の朱子学は、当時の社会的な流動現象に対応しての社会的・思想的な秩序回復を企図するものであり、その点で、これに先行する明代末期の東林派系統の思想や同時代のいわゆる経世致用派の思想とも共通する志向を有していたことを論証した。又、その背後には、時に原理主義的な側面をも併せ持つ、一種の復古主義的な礼教理念への回帰が看取され、それが同時に社会のより広汎な層への具体的な礼教規範の滲透という時代的な流れや要請とも即応していたことをある程度、明らかにし得た。こうした思想のより理念的な局面においては、当時の思想家たちの間にかなりの程度、共通了解が成立していたことが類推され、地域的な偏差は、むしろ各地域の個別的な利害が現出し易い具体的な政治論などの局面に限られいてたことも併せて予測された。理念と実践の双方による礼教規範の全社会的な滲透は清代を通じて進行するが、かかる側面から考える時、結論として、一見、無関係に見える顔朱子派や考證学なども、清代初期以来の大きな社会的・思想史的展開のなかに確かに位置づけられよう。
|
Research Products
(2 results)