1994 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06710258
|
Research Institution | Edogawa University |
Principal Investigator |
新井 正彦 江戸川大学, 社会学部, 講師 (10232026)
|
Keywords | 民間伝承 / 風土 / 民俗生活的文化 / 地域文化 / 文明批評 / 食文化 |
Research Abstract |
わが国の民俗学は民間伝承を研究資料として、民俗性や民族分化を庶民の生活感情を通して研究するものである。民間伝承が民族性格の個的因由を解明する唯一のものであり、文学が社会生活の論理を発掘することを目ざすものとすれば、一国文学の研究は民俗学の目的とする所から出発しなければならない。いままでの研究において、ひとつひとつの民俗の持つ本来の意義、その姿の究明はなされてき。しかし、ひとつひとつの民俗の本質的な究明だけでなく、個々の民俗はいづれもその土地、その風土の中で生まれ育ち推移してきたわけであるから、個々の民俗とその風土との関わりから追求することが必要である。そこで、本研究では、今もなお、民習の古典的形態が残る伝統の民俗を取り上げ、信濃における民俗と風土、そして文学との関わりを調査検討した。 旧家のしきたり、方言、食分化等は地域の分化を伝え、地域の豊かな人間関係を担うものである。そして、それぞれの地域に伝承する民俗はその土地に生きる人々の生活の知恵の結晶であり、その地の風土を背景に受け継がれてきている。柳田國男の『信州随筆』、貝原益軒の『岐蘇路記』は信濃の民俗、風土を伝えながら名高い随筆紀行文として成立している。また島崎藤村の『夜明け前』は、家長制度、民具、冠婚葬祭の慣習、食の文化までもこと細かに記され、それが作品をより重厚なものにしている。古来から、信濃に残る民俗生活的文化を文芸作品に書き記すことは、その土地の歴史、風土を伝え、作品の舞台風土、作中人物の生活描写をより明確にし、地域文化の生活化にもつながっていく。それは、ともすれば忘れ去られようとしている伝統的民族文化、民俗的生活の伝統の崩壊への警鐘文明批評的発現をも包含している。
|
Research Products
(1 results)