1994 Fiscal Year Annual Research Report
古典的条件付けを施した軟体動物における記憶の消去及び想起の生理学的メカニズム
Project/Area Number |
06780667
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
伊藤 悦朗 北海道大学, 理学部, 助教授 (80203131)
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Keywords | 学習記憶 / 古典的条件付け / 学習の成立 / 記憶の消去 / 忌避性学習 / 嗜好性学習 / シナプスモジュレーション / 軟体動物 |
Research Abstract |
軟体動物腹足類(カタツムリの仲間)の連合学習の一つである古典的条件付けを施した今までの神経科学的研究は、すべて電気ショック等(忌避性刺激)を無条件刺激として使っており,犬に餌(嗜好性刺激)を与えるようなバヴロフの条件付けとは大きく異なっている。我々は、忌避性学習と嗜好性学習とは分けて神経科学的研究を進めるべきと考え,それらの成立・維持・消去・想起の類似点・相異点をシナプスレベルで明らかにする実験を開始した。本年度はその第一歩として,行動学実験からスタートし,その結果として推測される2つの相異なるシナプス・モジュレーション・モデルを提出することに成功した。 1.行動学実験:ヨーロッパモノアラガイに忌避性学習(条件刺激(CS):ショ糖,無条件刺激(UCS):KCI)と嗜好性学習(CS:光または振動,US:ショ糖)の訓練を施した。その結果,忌避性学習は成立が早く,かつ記憶の保持も長いことが示され,嗜好性学習の方は全く逆に,成立に多くの訓練回数を要するにもかかわらず,記憶の消去は早いことが分かった。更には,感性予備条件付け及びオペラント条件付けも忌避性学習では成立しやすいものの,嗜好性学習では困難であることが示された。 2.シナプス・モジュレーション・モデル:忌避性学習は,UCS側の介在神経細胞からCS側のそれへ,強い抑制が長期に渡って不可逆的にかかると考えられた。一方,嗜好性学習は,CSに関与する介在神経細胞からUCSのそれへの興奮性のシナプスが強化されることであると予想された。しかし,これは可逆性が強いため,記憶の消去も早いものと考えられた。現在は,これらのモデルの証明実験を行なっており,着目している細胞の長期興奮によるカルシウム濃度上昇や、それに伴う蛋白質リン酸化の関与が明らかになりつつある。
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[Publications] 伊藤悦朗: "軟体動物の古典的条件づけを通してみた学習・記憶の分子機構" 蛋白質・核酸・酵素. 11. 2310-2321 (1994)
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[Publications] Etsuro Ito: "Intracellular Calcium Signals Are Enhanced for Days after Pavlovian Conditioning" Journal of Neurochemistry. 62. 1337-1344 (1994)