1994 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06801024
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
平岡 義和 奈良大学, 社会学部, 助教授 (40181143)
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Keywords | 足尾鉱毒事件 / フィリピンの環境問題 / 被害民の移住 / 労働移動 / インフォーマルセクター |
Research Abstract |
本年度は、実証面では、足尾鉱毒事件に関係する文献・資料の収集・整理・解読を中心に研究を進めた。同時に、理論的に世界システムの歴史的位相について考えていくために、生活変容、特に食を中心とした生活の変容について文献を集め、検討してきた。後者については、いまだ現段階では結論的なことはいえない。しかし、前者については、昨年度までのフィリピンの銅精錬所公害に関する調査、および他の研究助成(松下財団)による今年度の調査から、暫定的に以下のようなことがいえる。 加害源が、足尾の場合は銅鉱山、フィリピンの場合は銅精錬所という違いが存在することもあって、両事例において、地域の住民移動に関して顕著な差異はみられる。まず、足尾の場合は、銅山の労働力は北陸を中心とした農民層であり、逆に地元の農民主体の被害民は、他地域へ移住し、農業を継続している。両者の間に連関はみられない。これに対し、フィリピンの銅精錬所周辺では、足尾と同様工場関係の労働力の中心は外部から流入している。だが、周辺住民もかなりの部分工場の末端労働力として吸収されると同時に、一部はマニラなどの大都市へ動いており、主としてインフォーマルセクターと呼ばれるサービス業に従事しているとみられる。この差異は、19世紀に産業化に向けて離陸した日本と、現在産業化が進行しつつある途上国フィリピンの、産業化の歴史的位相の違いが反映したものと考えられる。つまり、19世紀日本の場合は、鉱工業中心に産業化が始発しながら、農業が依然労働力を保持する産業として残存していたのに対し、現在のフィリピンでは、鉱工業の労働力の吸収力は十分でなく、それを補完するものとしてインフォーマルセクターがかなり大きな役割をはたしているのである。
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