1996 Fiscal Year Annual Research Report
ウイグル語との対照による日本語の活用・接辞の発生論的研究
Project/Area Number |
06801051
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Research Institution | KYOTO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
木田 章義 京都大学, 文学研究科, 教授 (30131486)
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Keywords | ウイグル語 / 接辞 / 活用 |
Research Abstract |
初めの二年間は、現代ウイグル語の例文を、1800例集め、日本語ウイグル語対訳文例集を作成し、パソコンに入力した。また、中国のウイグル語文法書の記述にあわせた文法の概説書を作成した。そして、文例集の各用例を丁寧に分析し、インフォルマントに発音してもらって、現代ウイグル語の特徴を把握した。しかし、古代ウイグル語の分析はついに完成しなかった。研究協力者の阿不都熱西提氏が、ドイツで教鞭を取るという変化などもあり、氏の協力が途中でなくなってしまったことが大きな原因である。現在日本国内で、単独でできることは、古文献の文献学的研究であって、文法の分析まではできない。古代ウイグル語の文法が記述できる人間が居ないのである。自習で古代ウイグル語の文法を記述することは時間がかかりすぎる上に、不正確なものしか期待できない。幸い、平成8年度には、満洲語を母語とする研究者の協力を得ることができるようになり、満洲語の文例集も作成し、日本語・・ウイグル語・満洲語の比較研究へと発展した。そして満洲語(シボ語)の対訳文例を加えて、三言語の対訳文例集を作成した。 一般言語学的な常識として、言語の親縁関係は、音韻対応がなければ証明できないということになっているが、モンゴル語と満洲語のように疑う余地もなく近い関係にある言語でも、その音韻対応の成果は芳しくない。アルタイ系言語には音韻対応の方法は適用できないらしい。一方、語順や文法は変化しやすいというのが定説であるが、アルタイ語系言語と朝鮮語・日本語とは異常なほど文法が似ている。これを偶然の所産と考えることは難しい。印欧語族に属する言語の中に、語順が変化してしまったものがあることを根拠に、文法・語順は親縁関係の証拠にならないとされるが、他のほとんどの言語では大きくは変わっていないのである。むしろ、この点からも、文法や語順などが、言語の親縁関係に発言力があるだろうという推定も可能になる。 ウイグル語を初めとするアルタイ語系言語に見られる現象が、日本語にも存在しており、受身・使役を示す接辞の順番、接辞の種類も似たところが多い。使役や受身という特殊な語法が、どうして似ているのか、受身の接辞が自動詞を作るという現象、使役の接辞が他動詞を作るという現象など、これらのウイグル語の特徴はそのまま日本語にもあてはまるのである。こういう細部に臻類似点が共通していることを確認するならば、日本語をアルタイ語全体の中から見直して行く作業はこれからも重要な視点であることは確信できる。
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