1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06801053
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
福田 景道 島根大学, 教育学部, 助教授 (20181266)
|
Keywords | 歴史物語 / 物語文学 / 皇位継承過程 / 摂関政治 / 院政 |
Research Abstract |
本年度は,前年度に引き続いて,歴史物語・物語文学諸作品の「政治構造」(皇位継承や政権推移の過程を中心とした宮廷世界の動向)の解明と対比を試みた。研究計画に即した主な実績は以下のとおりである。 1 歴史物語各作品に描かれる「政治構造」の闡明を試みた。その結果,それぞれの対象とする時代が異なるためにその時代相が各政治構造に投影して各作品に独自性をもたらしている実態が明瞭に確認できたが,その一方で,全歴史物語が皇位継承過程(「世継」)を機軸に構想され,「家」が重視され,特に藤原氏摂関家が重視されるという共通性も明らかになった。 2 物語文学諸作品の構想の基底に潜在する「政治構造」にも注目した。そこにも,皇位継承過程への関心,「家」の重視,皇族と源氏の重視などの共通点が認められ,同時に政治構造の不完全性や矛盾が少なくないことが明らかになった。 3 如上の成果に基づいて物語文学と歴史物語の政治構造を対比してみると,両者は宮廷社会の政治組織や制度に対する認識の面で共通し,その中で支持する勢力や体制において隔絶するという漠然とした傾向が指摘できる。また,『源氏物語』に代表される物語文学の一代記的な性格と歴史物語の年代記的性格との根本的な相違に留意すると,両者の中間に『海人の刈藻』『苔の衣』『我身にたどる姫君』などの「年代記的物語文学」作品群が介在していると考えられるのである。 なお,物語文学に関しては,藤原・源両氏以外の氏族が存在すること,物語世界に記述される以前の政治状況の不可解さ,『源氏物語』の年立の矛盾などが新たな問題点として浮上した。
|