1995 Fiscal Year Annual Research Report
キリスト教教会堂建築形成期に於ける建築空間と神学的空間概念の同一性の研究
Project/Area Number |
06805058
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
竺 覚曉 金沢工業大学, 工学部, 教授 (30064447)
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Keywords | 初期キリスト教建築 / ビザンチン建築 / ギリシア正教 / キリスト教典礼 |
Research Abstract |
研究の要約 ギリシア正教-ビザンツ神学に於ける空間の観念は、それとして明確に定立されたいないが、神の属性のひとつとしての「偏在」、すなわち神そのものが空間であるという点で、初期キリスト教神学の空間の観念と共通する。すなわち、神-最高善は万物を自己から出現させ世界-空間を構成する。従って世界は神の位階構造をなしている。この出現が「流出」と呼ばれ、神の像として創られた人間は、世界の本質的実在(ヒュポスタシス)として、この「流出」-恩寵と結びついて神の肖とならねばならいが、堕落した人間はもはやこの任に堪えないという。この堕落した人間を神へと高める為に、神が人となって降臨し、その「身体」をもって贖いを行ったのがキリストである。このキリストの「身体」は復活するが、それは教会において、その秘跡において顕現して来るのである。従って、神とキリストと精霊は三位一体であり、それはキリストの「身体」として「偏在」であり、組織としての教会において、教会堂の形姿において、また秘跡の具現化である典礼において顕現する。そうしてこの顕現において人と神との合一-テオーシス-が成就されねばならない。ビザンツ神学-信仰の中核は、この神-キリスト=空間と一体化しそれを全人格的に体験することであった。教会堂の空間は、この神秘的体験の造形化であり、神の王国を形どった聖者なるイコン(0.クレマン)としての空間なのである。 この為ビザンティンでは教会堂平面は、原則的に平面中心点に関する点対象のギリシア十字形をなして、方向性の認められない集中式平面をとる。ギリシア十字平面東側にアプスを設けて聖處とし、典礼はこれに向かってその前で行われるが、参会信者にとっては典礼空間はギリシア十字平面の中央空間であり、その正方形空間の上部にはペンデンティヴ・ドームが架構されている。実にこのドーム空間こそが教会堂の中心空間であると同時に中心象徴空間である。ドームには「万能のキリスト」のイコンが描かれ、その窓々からは光が「流出」してくる。十字平面はキリストの身体のしょうちょうであり、ドームは「キリスト=太陽」の象徴でもある。 秘跡の典礼が行われるとき、教会堂空間はその典礼によって、「キリスト=神」の遍在そのものとなり、典礼のなかで信者はこの「空間的遍在」に浸されてテオーシスを経験するのである。 以上、ギリシア正教神学における空間に関する思惟の分析、ビザンティン教会堂建築空間の展開については、ある程度論理的な追跡を行なうことが出来た。しかし両者の対応を見るためには、ギリシア正教の典礼の内容を知る必要があるが、文献が少なく入手困難で、解析が十分とは言えない。
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