1996 Fiscal Year Annual Research Report
キリスト教教会堂建築形成期に於ける建築空間と神学的空間概念の同一性の研究
Project/Area Number |
06805058
|
Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
竺 覚暁 金沢工業大学, 工学部, 教授 (30064447)
|
Keywords | キリスト教建築 / ロマネスク建築 / 建築論 / 宗教建築論 / 神学的空間 / 建築空間論 |
Research Abstract |
初期中世-ロマネスク期-のラテン西欧キリスト教神学は、西欧文明の根底をなす思考の様態-思想のパラダイム-の礎を築いた。それは、因果律を前提とする合理的な理論的思考に基づく体系的思考の様態である。中世神学の形成においてこのことの出発点になったのは、中世全体に渡って広範な影響を及ぼしたディオニュシオス・偽アレオパギタの思想である。彼の中心思想は総ての存在の根拠としての神である。神の中に統一されてあるパラディグマタ(範型)が総ての存在者を規定し、存在に至らしめる。即ち、事物、世界は神から段階的に生じ、それによって存在の位階的秩序、累層的存在論が生じる。この累層的秩序が存在者の体系、全体と構成部分からなる組織をなすと言う。エリウゲナは偽アレオパギタを翻訳しカロリンガ朝神学の基礎に据えた。体系的思考様態は彼によってラテン西欧スコラ哲学の基礎となり、アベラルドゥスによって弁証法的論理が導入され、体系性はより精緻化した。十二世紀に始まるアリストテレス摂受によって、因果律と第一原因としての神、無限としての神概念が成立することで、この思考様態は頂点に達するのである。有限のものの無限集合としての神=事物の体系的宇宙がトマス・アクィナスの神であった。 プレ・ロマネスク-ロマネスク期の教会堂の空間構成の展開は、端的に言って「分節化」の進行である。その分節化の最初は身廊大アーケード列壁面に現れる。最初はアーケード列に柱列が単純なパターンの反復に分節されることに始まり、木造平天井がヴォ-ルト架構に替えられると共に、壁面頂部に達するアーケード列柱に掛けられた横断アーチが壁面のみならず、身廊空間そのものを分節する。この横断アーチに区切られた天井に交差ヴォ-ルトが架構されることによって、この一つのベイは、構造的にも空間的にも身廊空間全体を「加算的」に構成する分節「単位」となって行く。同時に身廊壁面もアーケード列に加えトリフォリウムやクリアストリーに分節され、それらのそれぞれが更に分節されてゆき、身廊空間全体が幾重もの位階的、累層的秩序をもった分節構造をなすに至るのである。この様に教会堂空間構成の展開は、神学におけるスコラ的神概念、存在者の無限集合たる宇宙概念の展開に即応している。
|