Research Abstract |
生漆は特定の金属に触れると黒っぽく着色するため,塗り上がりの発色に大きな影響を与える。したがって,漆の精製工程中はもとより,保存中や,使用する道具類にも,このような金属類を使用することは出来ない。生漆は金属粉末との反応を続けると,金属粉末がイオン化され,漆の主成分ウルシオールと錯体を生成する。この錯体生成が生漆の着色の原因と考えられる。したがって,金属粉末との反応により生漆の主成分ウルシオール中に取り込まれた金属量を測定することにより,生漆の反応初期のイオン化能を求めることが出来る。本研究では,鉄,鉛,マンガン,亜鉛及び銅の金属粉末,及びこれら金属の2種混合粉末の生漆に対する反応性を攪拌反応を行って明かにした。金属単独では鉄,鉛,マンガン,亜鉛,銅の順で反応性が低くなるが,鉄に鉛,マンガンまたは亜鉛を混入すると,鉄の反応性が低くなり,また,鉛にマンガンまたは亜鉛を混入すると,鉛の反応性が低くなった。他の金属のマンガン,亜鉛,銅の組み合わせでは,金属単独の時の反応性と同じで,その順位は入れ替わることはなかった。混合金属系のイオン化傾向の組み合わせを考えると,イオン化傾向の高いもの程反応性は高くなっている。しかし,鉄と鉛の系では,鉄がイオン化傾向が大きく,例外的な結果となった。反応生成物の分析結果から,特にマンガンを用いた場合に酸化反応や核置換反応を含む複雑な反応を起こしていると推察される結果を得た。また,マンガン含有の生漆の乾燥時間は極端に悪くなった。
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