1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06837002
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Research Institution | KOBE UNIVERSITY |
Principal Investigator |
小泉 直樹 神戸大学, 法学部, 助教授 (60178184)
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Keywords | 著作権法 / アメリカ法 / アメリカ著作権法 |
Research Abstract |
本年度においては、計3カ年にわたる本研究のまとめとして、研究成果の単行本としての刊行と、1996年末に成立したWIPO著作権新条約(著作権条約、隣接権条約)についての検討を行った。前者については、小泉直樹『アメリカ著作権制度-原理とと政策』(弘文堂、1996)を公刊し、後者についても、学術論文の形で公表を予定している。 第一に、アメリカ著作権制度を支える原理と政策について、前2カ年度における検討をふまえ、さらに、同国における著作権保護政策に重点を移した。具体的には、まず、アメリカ著作権法の基本概念である“creativity"と侵害成立範囲との相関関係における芸術・事実・機能の作品類型論を手掛かりとしつつ研究を行った。その結果、アメリカ著作権法においては、作品類型によって各要件、侵害成立範囲において差が設けられており、このことは、著作者のインセンティヴと公衆による利用のバランスをとりつつ創作を奨励するために著作権法が存在するという法原理が、具体的に政策として現れたものと理解されていることが明らかとなった。 すなわち、音楽、芸術作品のごとく、著作者の“個性"の発露に保護の根拠が求められるべき作品においては、作品に何らかの個性が現れていれば保護を肯定し、当該個性の表現が利用されている限りにおいて侵害を認定すべきことになる。これに対して、事実に忠実であることが条件とされ、データの収集、選択、配列の効率性、さらには、情報処理の機能性が求められる地図、コンピュータ・プログラムのような作品においては、しばしば標準的なコンセプトが共有されることが利用者の利便をもたらし、このような標準の独占は、当該作品の供給にとってのぞましくない社会的効果をもたらすおそれなしとしない。このような考慮からアメリカ法においては、侵害の成立範囲を限定するという操作を加えることで、標準の独占という事態をできるだけ回避しつつ、創作者への誘因を付与するという困難な調整作業が続けられてきたことが明らかにされたと考えている。 WIPO新条約については、公表間もないこともあり、今後も調査・研究を継続しし、その成果を学術論文として公表する予定である。
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