Research Abstract |
研究計画に沿って,実験箱を作成し,体温変化に伴う呼吸量を計測する実験を先ずProductmeterを用いて行った.その結果,イセエビ(暖流棲)の呼吸量は,体温を馴化した温度(15-20℃)から10度下げると,定説の様に,温度と共に減少した.しかし,馴化した温度から5度以内なら,体温の上下に応じて殆ど変化なく,むしろ温体低下で増え,体温上昇で減る傾向が見られた.この体温変化に抗した呼吸量の維持は,少なくとも1-2時間は持続していた.一方,ウミザリガニ(寒流棲)の呼吸量は,体温を馴化した温度(15℃)から10度下げても減らず,むしろ増える傾向にあった.5度の変化でも同様,体温低下で増え,体温上昇で減る傾向が見られ,イセエビの応答とほぼ同様であった.これら一連のデータは,体温変化に抗して代謝速度を維持する生理機構の存在を示すものであり,研究目標の一つが達成された. しかし,これが生体内の何処で,どの様になされているかが,重要な課題である.本研究では,これに囲心腔分泌器官管が関与していることを示す計画であり,酸素分圧測定器(P02-100)を用いて,イセエビの摘出心臓で先ず実験した.その結果,心臓自身は温度変化に準じた呼吸量変化を示していた.例えば,20度から15度への温度低下で組織の酸素分圧は12-13mmHgほど減った.また,囲心腔ホルモンのオクトパミンの投与で心臓の呼吸量は増えず,組織の酸素分圧は3-5mmHgほど増えた.一方,もう一つの囲心腔ホルモンのセトロニンの投与では,心臓の呼吸量が大きく増大した(組織の酸素分圧は50mmHgほど減った).私達はエビの囲心腔器官の分泌活動が体温低下に伴って高まることを実証している.従って,エビ生体の体温変化に抗して代謝速度(呼吸量)を維持する生理機構に囲心腔器官の分泌活動が関与していることが明白になってきた.更に,私達は比較的速い温度変化に伴う代謝変化を連続的に測ることを目標にしており,来年度はもっと多くの実験を重ね,量質共により勝る研究成果を得る必要がある.
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