Research Abstract |
本年度は,体温変化に抗して代謝速度を維持する生理機構に囲心腔分泌器官が関与していることについて,より詳細に研究した.先ず心臓で,次に腹部の骨格筋でも実験した.その結果,囲心腔ホルモンの1成分のセロトニンの投与で,酸素消費(代謝)速度が大きく増大することが確認できた.それ故,生息環境の温度に差があっても、イセエビやウミザリガニは,囲心腔器官からのセロトニンの分泌制御により,体温変化に抗して代謝速度を維持しうることが強く示唆された.もう一つの囲心腔ホルモン成分のオクトパミンは,代謝速度の促進にあまり寄与していなかったが,心筋の膜興奮を増進することが明らかとなった.温度が下ると,興奮-収縮連関の効率が落ち,筋収縮の強度は温度低下に伴って減少するが,オクトパミンが存在すれば,筋膜の興奮度がより高まる結果,興奮-収縮連関の効率の低下が補正されることになる.従って,体温低下に伴う筋収縮度の低下は,囲心腔器官からオクトパミンが分泌されることにより,防がれることが示唆された.蔵本らは,イセエビで,体温低下に伴い囲心腔器官からセロトニンやオクトパミンが分泌されることを実証している(Biol. Bull., 86,319-327,1994).かくして,エビの生体内においては,環境の温度低下に伴う体温の低下で,筋の代謝速度が下がらないだけでなく,筋収縮力も落ちないことが解明できた.また,本研究で,エビの体温を15℃まで下げておけば,酸素供給を遮断しても,15分間は少なくとも,心拍を続けることが解った.この酸欠状態での代謝調節機構は不明で,今後の課題であるが,イセエビの場合,15分で3Km位は移動できるので,このエビが低温の酸欠水塊に遭遇しても,その悪環境から逃避できうると推察された. 更に,本年度は比較的速い温度変化に伴う代謝変化を酸素電極法により連続的に測ることを目標にして,主に、イセエビの心臓を用いて実験を重た.その結果,温度に追従する前に,温度変化に抗して過敏に応ずる過渡的な応答が見れた.これは,酸素電極法により初めて観測できた成果は云えよう.
|