2007 Fiscal Year Annual Research Report
16世紀オスマン朝の詩人、文人の実態と心性の解明、同時期西欧文人との比較研究
Project/Area Number |
06J11565
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮下 遼 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 地中海通文化比較研究 / 地中海地域文化研究 / 西アジア史 / その他の各国文学 / 心性史 / トルコ文化史 |
Research Abstract |
2007年度は1年目の成果の発表が研究計画の根幹であった。その為、史料収集、調査、特に古典文学テクスト読解に必要な専門的技術の習得をトルコで進めつつ、研究成果発表に重点を置いた。まず「トルコ古典文学における都市と詩人」では、本来的に都市生活者であるオスマン詩人と都市の関係を考察し、韻文、散文の叙述史料からトポスを媒介とする都市称揚の構造、都市民描写を通して行われる都市社会批判の様態を解明した。 「オスマン朝「酌人の書」に見る詩的酒宴空間と酌人」では、典故主義的性格が強いトルコ古典文学にあって、定型の枠内で詩人が如何に自己の趣向を作品に反映させるかという、詩人と作品の関係性を考察した。本稿では神秘主義詩である酌人の書という同一ジャンル作品の比較考察を通し、定型の影に隠されたモチーフの多様性を詩人の社会生活と文学的観点から検討し、時代によって変容するモチーフの実像を明かした。 「東方旅行記における二つの観察潮流とそのトポス」では、オスマン詩人、西欧文人双方に跨る数少ない共通の観察対象である、イスタンブルとトルコ人という二つの論題に着目し、16世紀のラテン語、フランス語の東方旅行記6点を取り上げた。ここでは、トルコ史における基本史料の一つに数えられる東方旅行記の記述を無造作に抽出し、同時代の実態として理解する事の誤謬を指摘しつつ、各種の論題、それに付随する記述の多くが、東方旅行記という文脈上で培われたトポスやモチーフによって成り立っていることを明らかにした。 以上、1.オスマン詩人の都市社会へのコミットメント、2.オスセン詩人の作品へのコミットメントの様態、3.西欧文人によるトルコ観察の構造分析、が本年の主要な成果であり、1では社会史における文学史料の有用性を、2、3では文学史料、旅行記史料という史料群の基本的な性質を詳らかにする事が出来た。
|