1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07041026
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大村 敬一 大阪大学, 言語文化部, 講師 (40261250)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
寒川 恒夫 早稲田大学, 人間科学部, 教授 (70179373)
岸上 伸啓 国立民族学博物館, 第一研究部, 助教授 (60214772)
スチュアート ヘンリ 昭和女子大学, 大学院生活機構学専攻, 教授 (50187788)
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Keywords | イヌイット / 社会・文化変化 / イヌイット語 / 言語変化 / イヌイット・ゲーム / 生業と食料分配システム / 彫刻 / エスニシティー |
Research Abstract |
カナダ国北西準州ペリ-ベイ村、ケベック州イヌクジュアク村及びアクリビック村、カナダ国の公官庁、米国アラスカ州フェアバンクス、英国スコット極地研究所において、現在のイヌイット社会で進行している言語、社会、文化の変化と、その変化の社会・文化・政治・経済的背景について調査を実施し、以下の成果を得た。 1,イヌイット諸社会の言語、社会、文化の「伝統」の変化と持続の実態に関するデータが集積された。また、これまで未調査だったペリ-ベイ村のイヌイット語方言の語彙と文法の基礎的なデータが集積された。 2,カナダ政府管轄の北西準州のイヌイット社会とケベック州管轄の極北ケベック・イヌイット社会の間では、その「伝統」の変化と持続のあり方に相異が確認された。一般に、ケベック州に較べて、北西準州のイヌイット社会では、「伝統的な」社会形態や文化的知識がよく保持されているのに対して、言語の変化が大きい。 3,イヌイット諸社会の間の変化と持続のあり方にみられる以上のような相異が、近代資本主義的世界システムとの接触やカナダ国家への編入の過程などの歴史的経緯の違いと、現在のイヌイット諸社会をめぐる政治的・経済的状況の違いによるものであることが明らかとなった。 4,イヌイット諸社会の「伝統」の歴史的経緯の中で、イヌイット・ゲーム、彫刻、生業活動、食料の分配システムなどが、イヌイットのエスニシティーの象徴として重要な役割を果たしてきたことが確認された。 5,以上の成果より、イヌイット諸社会の変化の実態とその社会・文化・政治・経済的背景を、イヌイット全体やカナダ国というよりグローバルなコンテキストの中で把握する必要が痛感された。今後、イヌイット諸社会の比較調査を継続すると同時に、カナダ国の国家政策とイヌイットの相互関係を具体的に調査する計画である。
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[Publications] 大村 敬一: "消えた双数は何を意味しているのか:カナダ・イヌイットの言語の変化とその社会・文化的背景" 早稲田大学大学院文学研究科紀要. 21. 105-116 (1995)
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[Publications] 大村 敬一: "「伝統」と「近代」のブリコラージュとしての彫刻" 人間科学研究. 8-1. 1-14 (1995)
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[Publications] 大村 敬一: "環境を読む鍵としての色彩:カナダ・イヌイットの色彩語彙と色彩カテゴリーに関する試論" 北海道立北方民族博物館研究紀要. 5. 5-45 (1996)
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[Publications] 大村 敬一: "イメージの幹としての「からだ」:イヌイットの身体観と世界観の関係に関する覚え書き" 体育の科学. 47. 518-527 (1997)
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[Publications] 大村 敬一: "A Research Note on the color terminology system in the Natsilingmiutut dialect of Inuktitut." Etudes/Inuit/Studies. 22-1(印刷中). (1998)
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[Publications] スチュアート ヘンリ: "ツンドラの人類学:北アメリカ大陸極北のイヌイットとエスキモー" 昭和女子大学国際文化研究所紀要. 2. 45-51 (1996)
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[Publications] スチュアート ヘンリ: "北ケベックのイヌイット:2つのマジョリティーの間にはさまれる先住民族" 立命大学言語文化研究. 8-1. 287-308 (1996)
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[Publications] スチュアート ヘンリ: "先住民運動:その歴史、展開、現状と展望" 紛争と運動(岩波講座文化人類学 第6巻). 6. 229-256 (1997)
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[Publications] スチュアート ヘンリ: "マス・メディアに登場する「民族」「部族」「族」使い分け基準は何か" 民族学研究. 62-1. 108-110 (1997)
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[Publications] 岸上 伸啓: "Extended Family and Food Sharing Practices Among the Contemporary Netsilik Inuit" 北海道教育大学紀要1部B. 45-2. 1-9 (1995)
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[Publications] 岸上 伸啓: "カナダ国ヌナビック・イヌイットの社会経済変容" 人文論究(北海道教育大学函館人文学会). 60. 81-99 (1995)
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[Publications] 岸上 伸啓: "カナダ・イヌイットの名前、名前の霊魂と社会変化" 北海道教育大学紀要1部B. 46-2. 27-37 (1996)
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[Publications] 岸上 伸啓: "カナダ・イヌイット社会の社会・経済変化" 国立民族学博物館研究報告. 21-4. 715-775 (1996)
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[Publications] 岸上 伸啓: "カナダの都市先住民について" カナダ研究年報. 17. 66-72 (1997)
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[Publications] 大村 敬一: "食と健康の文化人類学" 学術図書出版(滝口直子、秋野晃司編), 158-178 (1995)
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[Publications] スチュアート ヘンリ: "採集狩猟民の現在:生業文化の変容と再生" 言叢社(スチュアート ヘンリ編), 243 (1996)
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[Publications] スチュアート ヘンリ: "多文化主義・多言語主義の現在" 人文書院(西川長夫 他 編), 109-132 (1997)
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[Publications] 岸上 伸啓: "女の民族誌2" 弘文堂(綾部恒雄編), 131-152 (1997)
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[Publications] 岸上 伸啓: "Circumpolar Animism and Shamanism" Hokkaido University Press (Irimoto,T.and T.Yamada eds.), 151-166 (1997)