Research Abstract |
本研究の目的は、1)細胞間の接着にかかわる糖鎖認識接着分子であるセレクチンファミリー(E-、L-、P-セレクチン)やウイルスやバクテリア、さらに原虫感染における糖鎖認識分子の特異性、相互認識機構、情報伝達機構などを明らかにし、2)新しい糖鎖病理学の研究領域を開拓し、3)新世代の抗炎症、抗癌転移薬開発へと応用する実験的基盤を確立する事である。本年度は主としてセレクチンが認識する糖鎖と炎症病理との関連を分子レベルで解明するためミシガン大学医学部Peter A. Ward教授との共同研究を展開した。計画は順調に進み、以下の成果が得られた。 1)セレクチンファミリーの糖鎖リガンドとしてシアリルルイスxが知られている。我々はこれに加えて硫酸化糖脂質(スルファチド)がL-およびP-セレクチンに対する強力な糖鎖リガンドであることを見いだした。さらに、その誘導体を合成し、構造活性相関を明らかにした(Mulligan,M.S.,Suzuki,Y.,Ward P.A.et al.,International Immunol.7,1107-1113,1995にて発表;Warner,R.L.,Mulligan,M.S.Lowe,J.B.,Suzuki,Y.,Ward,P.A.,American Soc.for Investigative Pathology,June 2-6,1996,New Orleans,Louisianaで発表予定)。 2)研究分担者のWardらのグループは、コブラ毒因子投与により発症する肺炎症はL-およびP-セレクチン依存性の炎症であることを見出し、セレクチン依存性の肺炎症モデルの作製に成功した。この成果を上記スルファチに応用したところスルファチドはコブラ毒因子投与により惹起される肺炎症を強力に抑制することを見いだした(Mulligan,M.S.,Suzuki,Y.,Ward P.A.et al.,International Immunol.7,1107-1113,1995にて発表)。本研究の成果は分担者Ward教授との共同研究により初めて遂行できた。 3)スルファチドはCC14により誘発された肝炎症に対しても強力な阻止効果を認めた(Kajihara,J.Suzuki,Y.et al.,Biosci.Biotech.Biochem.,59,155-157,1995にて発表)。 4)セレクチンファミリー共通の糖鎖リガンドであるシアリルルイスxおよびシアリルルイスaの前駆体である糖脂質、nLc4Cer(Type II骨格)およびLc4Cer(Type I骨格)に対するシアル酸転移酵素の特異性を明らかにした(Miyamoto,D.,Nishi,T.,Suzuki,Y.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.217,852-858,1995にて発表)。 5)尿路結紮腎炎は新しいL-セレクチン依存性腎炎症モデルであるとを見いだした。このモデルラットヘスルファチドおよびいくつかの硫酸化糖鎖を投与したところこの腎炎を極めて有効に抑制することを確認した(1995年度の日本腎臓学会、日本脂質生化学会、日本薬学会などで発表)。 以上、初年度の研究は順調に推移した。来年度は、さらに感染症に関わる糖鎖認識分子についても研究を広げる予定である。
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