1995 Fiscal Year Annual Research Report
低温下における蛋白質X線結晶構造解析による蛋白質熱振動の研究
Project/Area Number |
07280230
|
Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
中迫 雅由 理化学研究所, 生物物理研究室, 研究員 (30227764)
|
Keywords | 低温蛋白質X線結晶構造解析 / 蛋白質熱振動 / 蛋白質物性 |
Research Abstract |
本研究課題では、低温下での蛋白質振動の熱的挙動を詳細に研究するための技術開発とその初期的な応用を行った。 低温下での蛋白質X線結晶構造解析技術の確立 蛋白質結晶のX線露光時の放射線損傷を低減させ、低温下での蛋白質の熱振動挙動研究のために、蛋白質結晶を100K程度の低温に急速冷却し回折強度測定を行うための技術検討を行った。特に、結晶の急速冷却のために100μm程度の厚みにスライスしたキャピラリーを結晶マウント具として用いる方法を開発した。国内では、低温実験がまだ未発達であり、その普及のために、本研究で確立された低温実験における一連の方法論や過程の詳細についてまとめた小冊子(Nakasako, "Methods in cryogenic protein crystallography")を作成し配布した。今回開発された方法は、実験室ならびに放射光実験施設において実際に適用され、低温下でのX線回折実験の有効性が確認された。トリプシン、イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素、放射線損傷に対して脆弱なH2プロテアーゼ、ニトリルヒドラターゼ結晶の回折強度測定に適用された。 トリプシンの低温下X線回折実験 蛋白質の低温物性をX線結晶構造解析の立場から探索して行くために、典型的な酵素であるトリプシンに着目して低温下X線回折実験を開始した。今後の研究の基礎データを確立すべく、3種類(斜方晶系2種類、三方晶系1種類)の結晶について低温下(100K)および室温下での回折実験および構造精密化を行い、蛋白質構造の温度変化、低温下での水和水のネットワーク構造を解析した。特に、蛋白質を取り囲む水分子の水素結合ネットワークには水分子を100以上含むものであり、蛋白質の熱振動に大きな影響を及ぼしていることが推察された。構造精密化後の水分子の配置解析のために、専用のプログラム開発(FESTKOP)も行った。 耐熱性および改変イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素の低温結晶構造解析 イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素の熱安定性は複数種のキメラおよび点突然変異酵素を用いて議論されてきたが、幾つかの改変酵素についてはその熱安定性を十分に説明できないでいる。本研究では、まず、改変酵素の水和構造の差異がその熱安定性に如何に関わるかを検討するために耐熱性とその改変型の低温構造解析を行ってた。野性型については、通常の蛋白質と同じく低温下でガラス転移点を持つことが示唆された。また、改変酵素(2T2M6T_S82R)は構造が揺らぎやすいことが示された。
|
-
[Publications] Masayoshi Nakasako: "Acrystal mounting device made from capillary tube for cryogenic macromolecular crystallography" Journal of applied crystallography. 28. (1995)
-
[Publications] Chikahiro Nagata: "Cryo crystallograpy of 3-Isopropylmalate dehydrognase from thermus thermophilus and its chimeric en3yme." Acta Crystallographica Section D.5/(印刷中). (1996)
-
[Publications] 中迫雅由: "低温下での蛋白質X線結晶解析技術" 日本結晶学会誌. 37. 266-270 (1995)
-
[Publications] 中迫雅由: "蛋白質結晶の液体窒素温度への冷却方法" 日本生物物理学会誌. 37(印刷中). (1996)