Research Abstract |
平成9年1月16日に慶應義塾大学において研究討論会を実施した.の内容を以下に記述する. 1.マイクロパルスシステムによる表面焼入れ材の疲労信頼性に関する研究,堀川【龍谷大】小茂鳥,清水【慶大】,森田【京都工芸繊維大】川嵜【高周波熱錬】,<要旨>「浅い硬化層を有する超急速加熱高周波焼入れ材の疲労強度と破壊機構」,近年開発された超急速誘導加熱システムを用いた高周波焼入れは,浸炭に変わる新しい表面改質手法として注目されている。本講演では,このシステムにより焼入れ処理を施した平滑試験片および切欠試験片(a=2.3)の,(i)硬さ・残留応力分布の測定結果,(ii)回転曲げ疲れ試験の結果および(iii)SEMによる破壊メカニズムの観察結果について述べた。 3.「P-S-N球儀」による表面改質部品の疲労信頼性設計,鈴木,西野【茨大】ほか,<要旨>一般に表面改質材のS-N曲線は特徴的な様相を呈し,寿命のバラツキも大きいため単純な形で表すことは困難である.表面改質材の疲労信頼性の診断・保証に指針を与えることを目的として,母材の組織形態が大きく異なる2種類の材料を具体例として取り上げ,S-N球儀と称する新しい概念を用いて評価した. 4.浸炭異常層を除去した高濃度浸炭鋼の疲労強度評価,黒島【九工大】<要旨>浸炭異常層を除去した高濃度浸炭鋼は,長寿命域でも表面を起点とした疲労破壊を生ずる.この原因は析出炭化物によって安定化された表面の残留オーステナイトを起点としてき裂が発生することにあり,疲労限度ではき裂は炭化物で停留する.そこで炭化物間距離と炭化物破壊条件から疲労限度推定が可能か否か検討した結果,炭化物破壊条件を炭化物の破壊じん性値,停留き裂寸法を最大炭化物間距離の50%とすることで疲労限度が推定できることが分かった。 5.遮熱コーティング材の熱サイクル損傷と遮熱特性,武藤【長岡技科大】ほか,<要旨>セラミックしゃ熱皮膜での,高温保持時間の異なる2種類の大気中熱サイクル試験を行った。試験後,SEMを用いて熱サイクルによって発生した表面き裂等を評価し,また熱サイクル付与に伴う皮膜の熱伝導率の変化を調査した。その結果,表面垂直き裂等の発生挙動は加熱時間の長短より熱サイクル繰返しに依存する,熱伝導率は熱サイクル繰返しより総加熱時間に依存する,これは皮膜中の気孔面積が減少したことが原因である,という結論が得られた。 6.イオン窒化とTiN被覆によるハイブリット表面改質鋼の疲労強度特性,塩澤【富山大】<要旨> SKD61鋼にプラズマ光輝窒化処理(イオン窒化),PVD法による厚さ約2.5μmのTiN被覆処理,およびこれらの複合処理を施した試料の大気中における片持回転曲げ疲労試験を行い,疲労強度特性に及ぼす表面改質処理の影響に付いて検討した。複合処理材の疲労強度が最も高く,次いでイオン窒化材,TiN被覆材,未処理材の順であったが,長寿命域においてこれらの差違が減少する傾向を示した。複合処理材およびイオン窒化材の疲労き裂発生起点は試験片内部であり,破面にフィッシュアイが観察された。一方,他の二者は表面き裂発生型の破壊形態であった。フィッシュアイ型疲労破壊する試験片においても表面高硬度被膜の影響が認められ疲労強度向上効果が存在する。これは,被覆処理が試料表面層の塑性変形拘束によるき裂発生の遅延効果のみならず,試料表面近傍の微小内部き裂進展を抑制する効果のあることを示している点で興味深い。内部き裂進展の被覆による抑制効果を破面の詳細な観察と,破壊力学的立場から考察した。
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