Research Abstract |
中国経済は,「改革解放政策」を進め成長のテンポが速まる一方で,解決すべき問題点も多い。例えば,財政・社会保障会計の悪化,市場経済化に伴うインフレ・所得格差の拡大,経営収支の赤字化,エネルギー・環境問題等々である。中国がこのような問題を解決しながら経済発展を続けるためには,日本が経験したような混合経済システムへの軟着陸が現実的であると思われる。本研究の目的は,日本の経験がこうした問題に対する具体的処方箋になりうるかについて理論的・実証的に検討することである。 われわれの研究グループでは,こうした問題意識を持ち,中国の現状把握を企図して大連,瀋陽,北京の企業,地方政府,研究所を訪問調査した(報告は『経営経済』32号)。 また,研究グループ内の各人の研究経過は以下のとおりである。山本は,社会開発の重要な側面たる社会保険・社会保障制度の実態把握,これらに関する問題点とその解決のための改革の進展状況の把握,および政策提言の取りまとめに着手した。これに平行して,日本のODAに関するサーベイ,特に対中国ODAの実態とそれが持つ効果を「社会開発」との関連で調査した。伊藤は,天津での日系企業を対象にして行った現地調査の結果を取りまとめるとともに(『経営経済』32号),「中国の経済発展とインフレーション」をテーマに研究し,その理論的前提としてのインフレーションの理論をまとめた(『経済論壇』1996-6期)。引き続き「経済発展における金融政策の役割」をテーマに研究を続け,その成果については論文を執筆中(年度内に脱稿予定)。二宮と藤川は,中国を中心とする統計資料を,研究グループ内のみならず広く一般の利用を意識したデータベースの整備に努め,これら統計資料を利用した研究を行った。産業連関分析の応用として,中国産業構造の変化動向を把握するための産業連関モデルの開発(『大阪経大論集』47-6),および,産業別環境汚染物質排出量計測モデルの開発と中国への適用(『経営経済』32号)を行った。また,日中両国での計算可能均衡モデル(CGEモデル)構造について議論を始めた。
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