Research Abstract |
研究対象は申請者らが産業医として職場に関わっている電気製造事業所の全従業員800名とし,職場のストレスとメンタルヘルスに関する質問紙調査の3回目,4回目,5回目を行った.質問紙の内容は,精神的健康状態を把握するための英国のGoldbergが開発した全般健康調査票(General Health Questionnaire,GHQ),職場の主観的ストレスを明らかにするための職場のストレスに関する14項目,家庭に関するストレス状態を把握するための家庭生活への満足度および性,年齢,職種,喫煙状況,飲酒状況などとした.GHQについてはわが国において妥当性が確認されている30項目版を用い,職場の主観的ストレスに関しては上畑の開発した14項目版を用いた.第1回目調査から1年後に第3回目調査,1.5年後に4回目調査,2年後に5回目調査を実施し,コホート研究を設定して,追跡期間2年間での精神的不健康状態発現リスクを明らかにした.また多重ロジスティック・モデルを用いて性,年齢,職場,当初の精神症状などの交絡要因をコントロールして,当初の職場のストレスの有無別のリスク比を明らかにした.その結果,リスク比の大きかったストレス項目(リスク比,95%信頼区間)は,「トラブルが多すぎる」(1.7,1.4-2.0),「上司との関係が悪い」(1.6,1.3-2.0),「責任が重すぎる」(1.6,1.4-1.9),「技術の進歩についていけない」(1.6,1.3-2.0)であった.多重ロジスティック分析に結果では,他の交絡要因を調整しても,上記ストレス項目のリスクオッズ比(p値)はそれぞれ,2.3(p<0.001),2.0(p<0.001),2.1(p<0.001),2.2(p<0.001)であった.これらの結果から,コホート研究法を用いての分析でも職場のストレスと精神的不健康状態との関連が認められた.これまでに横断研究において職場のストレスと精神的健康との関連が明らかになっていたが,今回コホート研究法を用いてもその関連が認められたことから,職場のストレスと精神的不健康との間の因果関係が強く示唆された.
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