Research Abstract |
目的)アポ蛋白E(apoE)-ε4 alleleはアルツハイマー病(AD)の危険因子である.我々ホリマリン固定脳切片よりDNAを抽出し,ADおよび対照のapoE遺伝子頻度を求め,apoE-ε4の疾患特異性を検討してきた.本年度は検討症例数を増やしながら,ADのapoE遺伝子型と発症年齢との関係,超高齢健常者のapoE遺伝子型の特徴,およびε4のAD発症作用を修飾するとされているα1アンチキモトリプシン(ACT)シグナルペプチド遺伝子多型をも検討した.ACTシグナルペプチドの3つの遺伝子型(AA,AT,TT)のうちAAがε4と相乗的に働く危険因子との報告がある. 方法)対象はAD15例(41-90y,o.),対照49例(66-93y.o.).ホルマリン固定の脳切片よりDNAを抽出し,PCRでDNAを増幅後,apoE遺伝子型(制限酵素Hha I)およびACTシグナルペプチド多型(制限酵素MvaI)を決定した. 結果)で,このうち49例(76.5%)でPCR産物が増幅された.対照ではε4/3,ε3/3,ε3/2が各2(5.3%),30(78.9%),6(15.8%)であったが,ADでは各々4(36.4%),7(63.6%),0(0%)とADではε4/3の比率が高かった.対照のうち80歳以上の高齢者18人ではε4/3,ε3/3,ε3/2が各々4(22.2%),12(66.7%),2(11.1%)であり,高齢者ではε3/2の比率が高かったがε4を保有する90歳代の健常者が2人見つかった.ADの発症年齢との関係ではε4保有者では69.7±5.4歳,ε4非保有者では67.2±10.3歳でε4の発症年齢若年化作用は認められなかった.ACTの遺伝子型はADではAA2(15.4%),AT6(46.2%),TT5(38.4%),対照ではAA6(15.4%),AT16(41.0%),TT17(43.6%)で両群間に差はなかった. 考察)ADではε4/3の比率が高かった点はこれまでの報告と一致している.しかし,90歳代の超高齢健常者でもε4保有者が見いだされた点はε4がAD発症の十分条件ではないことを示しており,他の遺伝・環境因子の関与が考えられる.このうち,遺伝因子の中ではACTの遺伝子多型が有力とされていたが,今回の結果はこれを支持しなかった.ε4の発症年齢若年化作用についてはε4非保有者の発症年齢の方がむしろ若い結果となっており.今後さらに多くの症例での検討を要する.ε2のAD発症防御作用に関してはこれまでの結果を支持するものであった.
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