Research Abstract |
これまで授業を対象とした授業研究の方法論は数多く提案されてきているが,これらを大別すると,(1)心理学的方法,(2)工学的方法,(3)誌学的方法,(4)文化人類学的方法,(5)現象学的方法の5つになると考えられる.しかしながら,これらの方法のなかで具体的に教師の教授行動の変容を目的としているのは,工学的方法の一部であるマイクロティーチングやシミュレーション的な手法である. 本研究は,これらの手法をさらに発展させて,教師の実践的能力を高めていく目的に対しては,結果の良し悪しという一般的な評価(evaluation)よりも,教授・学習過程のそれぞれの時点(状態)で選択可能な授業展開と教授行動を予測し,そのなかから最適な行動を選択していく教授行動の選択肢間の評価(アセスメント,assessment)の概念を適用したシミュレーション・モデルが有効であるという視点に立ち,その方法論の構築,展開を目指しているものである. 3年間の研究機関を経て,授業を教師が意思決定する状態の遷移過程としてとらえ,また同時にファジィ集合の確率的多段階決定過程とみなしながら,授業のある状態をSiとして,教師の選択可能な教授行動をSi,j,子どもの反応系列をRi,jと定義づけた.結果として,授業は〔Si,j,Ri,j〕(i,j=1,……n)として表現でき,この考え方を基にして,授業の構造化モデルを設定・開発し,すぐれたベテラン教師(斎藤喜博,武田常夫,大村はま)による教育実践を構成する要素,背景をさまざまな記録を基に,解明することができた.
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