Research Abstract |
脂肪酸は,生体内ではβ酸化と呼ばれる経路によって代謝される。このβ酸化は,細胞内のミトコンドリア,ペルオキシソームで行われる二つの経路が知られている。両経路の初初段階を触媒する酵素はアシルCoAデヒドロゲナーゼ(ミトコンドリア,ACDと略)およびアシルCoAオキシダーゼ(ペルオキシソーム,ACOと略)で,いずれもFADを補酵素とするフラビン酵素である。本課題では,基質アナログの3-ケトアシルCoAとACD/ACOとの電荷移動(CT)複合体の分光学的測定(紫外可視分光スペクトル,共鳴ラマンスペクトル)を行い,ACD,ACOにおける基質結合の特徴,相違を明らかにすることができた。2種類のACO(ACO-I,ACO-II)の基質特異性は,3-ケトアシルCoA結合による電荷移動吸収帯の強度に反映される。このことは,ACDにも見られる特徴である。また,3-ケトアシルCoAがACD,ACOに結合すると,C(1)=Oが優先的に分極を受け,C(1)=O分極による基質活性化が両者で見られることがわかった。一方,電荷移動複合体の共鳴ラマンスペクトルでは,ACD,ACOの間で共鳴効果を受けるラマン線の波数に違いが見られる。この違いは,基質-フラビン-タンパク質相互の水素結合ネットワークなどの相互作用が,ACD,ACOの間で異なり,反応の違いを反映していると考えられる。すなわち,ACDは基質から電子を受け取り,電子を電子伝達フラビンタンパク質を経由してミトコンドリアの呼吸鎖に供与するのに対し,ACDは基質から受け取った電子を分子状酸素に伝達する。 ACOと同様に,基質からの電子を酸素に渡すフラビン酵素のD-アミノ酸酸化酵素,D-アスパラギン酸酸素酵素についても,結晶学的測定,分光学的測定,反応動力学的測定を行い,基質結合部位の構造,基質活性化の機構についての貴重な知見を得ることができた。
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