Research Abstract |
切除乳癌標本,良性線維腺腫および線維芽細胞を用いてウエスタンブロットを行ってMRP-1蛋白の検討を行った.その結果,線維芽細胞などの正常細胞や良性線維腺腫ではほぼ25Kの蛋白しか発現されないのに対し,乳癌では25Kと28Kの蛋白が発現されていた.更に,乳癌において原発巣と転移リンパ節との比較を行ってみると,原発巣に比べて転移リンパ節ではMRP-1の発現量が減少,また25Kのバンドが28Kに比べ相対的に減少してくることが多いことが判明した.そこで,MRP-1の喪失または25Kから28Kへの癌性変化が転移能に関係していることが示唆されたので,1990年6月から1992年12月までの切除乳癌症例144例を対象に,ウェスタンブロット及び凍結切片の免疫組織染色を行い,MRP-1の発現と乳癌の予後との関連を検討した.また,MRP-1減弱例及び消失例では,ノーザンブロット,RT-PCRを行うとともにcDNAシークエンスを行い遺伝子異常の解析を行った.その結果,MRP-1は,67.8%(97/143)でほぼ保持されており,32.2%(46/143)で減弱消失していた.これら2群で,1995年8月31日の時点で,無病率,生存率について解析を行った.無病率では,非減弱率は84.7%であるのに対し,減弱消失群は51.4%と予後が,MRP-1の減少とともに悪化する事が判明した(P<0.001).一方,生存率で比較してみても,非減弱率は93.6%,減弱消失群は69.6%と有意にMRP-1の消失は予後に悪影響を及ぼすことが明らかとなった(P=0.004).また,減弱群,消失群では,ノーザンブロット,RT-PCRの結果,mRNAが,それぞれ減少,消失しており,ウエスタンブロット,免疫組織染色の結果とよく合致した).しかしながら、RT-PCR産物を利用して行ったcDNAシークエンスでは,現在のところhot spotと考えられるような点突然変異等は発見できていない.現在,肺癌症例でも症例数を蓄積中であり,今後の検討が待たれる.
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